年金を70歳で受け取り「15万→21万円に増やす」と意気込む夫。もし“68歳で死亡”すると「受け取れなかった年金」は遺族年金などに反映されますか? 結局「払い損」になってしまうでしょうか?
受け取れなかった年金は、一定の範囲で「未支給年金」として遺族が請求できます。ただし、待機中か受給開始後か、また請求時点から5年以内かどうかによって、受け取れる金額に大きな差があります。
本記事では、繰下げ受給の基本的な仕組みから、亡くなった時期ごとに遺族が受け取れる年金の違いまでを解説します。
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年金の繰下げ受給とは?
年金の繰下げ受給とは、本来65歳から受け取れる老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給開始を、66歳から最長75歳までの間に遅らせる制度です。受給を1ヶ月遅らせるごとに年金額が0.7%ずつ増え、5年間繰り下げて70歳から受け取ると増額率は42%になります。
70歳から受け取り始めた場合、65歳受給と比べて受け取り総額が上回るのは81歳11ヶ月(約82歳)以降です。長生きするほど有利な制度といえるでしょう。65歳から受給開始までの間を「繰下げ待機期間」といい、待機中は年金収入がゼロになるため、預貯金や退職金などで生活費を賄う必要があります。
繰り下げを始める際に受給開始年齢をあらかじめ決めておく必要はなく、65歳以降に手続きをしなければ年金は支給開始されず、結果として繰下げ待機の状態になります。
年金の繰下げ待機中に亡くなると年金はどうなる?
繰下げ待機期間中に亡くなった場合、本人が受け取れなかった年金は「未支給年金」として、生計を同じくしていた遺族が請求できます。遺族が受け取れる未支給年金の金額は65歳時点の年金額が基準となり、繰り下げによる増額は一切適用されません。
例えば本来65歳から月額15万円を受け取れるはずだった夫が、待機中に68歳で亡くなった場合、遺族が受け取れる未支給年金はおよそ3年分・約540万円になります。
ただし、未支給年金を受け取れる権利には5年の時効があり、長期間の繰下げ待機中に亡くなると受け取れない年金が出てくる点に注意が必要です。75歳まで繰り下げようとしていた夫が74歳で亡くなった場合、請求時点から5年を超える分は時効で受け取れない可能性があります。
年金の繰下げ受給開始直後に亡くなると年金はどうなる?
繰下げ受給を開始したあと亡くなった場合、遺族が受け取れる年金の条件や金額は、待機中に亡くなった場合と大きく異なります。遺族が受け取れるのは「死亡した月までの年金のうちまだ受け取っていない分」のみで、待機期間分を遡って支給される仕組みにはなっていません。
例えば70歳から受け取り始めてすぐに亡くなった場合、年金は後払いで支給されるため、死亡した月までの年金のうち、まだ本人に支払われていない分が未支給年金として支払われます。
繰り下げで増額された年金額は遺族年金の計算に反映されず、遺族厚生年金はあくまで繰り下げによる増額前の老齢厚生年金額を基に算出されます。夫が苦労して増やした月額21万円も遺族年金には反映されないため、受給開始のタイミングを夫婦でよく確認しておきましょう。
まとめ
繰下げ待機中に亡くなった場合、遺族は65歳時点の年金額を基に計算した未支給年金を請求できますが、繰り下げによる増額分は含まれません。未支給年金の請求権には5年の時効があるため、長期間の待機中に亡くなると受け取れない年金が発生する場合もあります。
一方、繰下げ受給を開始してから亡くなった場合、遺族が受け取れるのは死亡した月までの年金のうち、まだ支払われていない分のみです。遺族年金にも繰り下げによる増額は反映されないため、受給開始のタイミングや万一の備えについて夫婦で事前に話し合っておきましょう。
出典
日本年金機構 年金の繰下げ受給
厚生労働省 未支給年金 お手続きガイド
執筆者 : 高柳政道
FP1級、CFP、DCプランナー2級
