更新日: 2022.12.29 控除
【FP相談】夫の扶養内でパートをしたいです。年収はいくらまでに抑えればよいでしょうか?
最新の制度から解説します。
執筆者:伊藤秀雄(いとう ひでお)
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員
大手電機メーカーで人事労務の仕事に長く従事。社員のキャリアの節目やライフイベントに数多く立ち会うなかで、お金の問題に向き合わなくては解決につながらないと痛感。FP資格取得後はそれらの経験を仕事に活かすとともに、日本FP協会の無料相談室相談員、セミナー講師、執筆活動等を続けている。
社会保険料を負担するのは年収いくらから?
パート等で働いている方は、「〇〇万円の壁」という言葉をよく聞くと思います。
扶養家族の配偶者が就業する際、一定の年収を超えると配偶者自身が社会保険に加入する必要があります。第三号被保険者から外れて社会保険料が発生するため、上限以内に年収を抑えて働こうという考え方です。
この社会保険の壁には、「106万円」と「130万円」の2つがあります。
106万円の壁は、次の要件にすべて当てはまる場合に、パート先の社会保険(厚生年金保険と健康保険)に加入が必須となります(※1.)。
1.週の所定労働時間が20時間以上
2.雇用期間が1年以上見込まれる
3.学生でない
4.特定適用事業所または任意特定適用事業所に勤めている
(国、地方公共団体に属する全ての適用事業所を含む)
※(1)と(3)は、2022年10月から対象拡大
例えば、時給1000円で1日8時間、週3日働くと該当します。なお、残業代、賞与、通勤費等は含みません。シフト制で月末にパート先から頼まれ、欠勤者の穴を何度か埋めていたら壁を越えてしまった……なんてありそうですね。
一方、年収130万円を超えた人は扶養をはずれます。106万円のような条件を問わず、社会保険に加入します。もし、パート先が個人商店のように社会保険を完備していなければ、自分で国民年金保険と国民健康保険に加入しないといけません。この場合、保険料は全額自己負担になるので負担感はさらに大きくなります。
106万円と130万円、いずれの壁についても、
壁の手前で年収を抑え扶養内で働く
保険料負担したうえ手取りで壁を上回るよう働く
上記のどちらにするのか、世帯全体の収支予想や今後の貯蓄計画などから決めていく必要があるでしょう。負担する社会保険料を、協会けんぽの保険料率など東京都を例に試算すると、106万円以上を手元に残すには約124万円、130万円以上を手元に残すには約152万円まで年収を上げればよいことになります。なお、所得税・住民税負担は考慮していません(※2.)。
扶養の壁は2つある
扶養の壁という時に、社会保険加入とは別の大事な視点があります。勤務先の配偶者手当です。呼び方はさまざまですが、配偶者への扶養手当を支給する勤務先は多くあります。
ただ、「103万円の壁」を超えることで、勤務先からの手当支給が停止されることが多いのです。この壁は「所得税の壁」で、年収103万円を超えると所得税の課税対象になり、同時に「配偶者控除」から「配偶者特別控除」に移行します。このタイミングで、勤務先が配偶者手当を停止するということです(※3.)。
もし、配偶者手当が月1万5000円だとすると、年間で18万円の収入減です。
「扶養の壁」は、社会保険料負担の境目だけでなく、勤務先手当の停止による減額幅も把握しないと判断を見誤ります。これらの負担増を、収入を増やして乗り越えるのか、どこかの壁の前でとどまるのか、納得のいく選択をしたいものです。
なお、配偶者手当の壁の設定は、103万円だけでなく、130万円、150万円などさまざまです。自分の勤務先の手当がなくなるのは何万円の時か、大事な確認事項です。
選択肢を知ることが大事
扶養内で働きたい、という理由はさまざまでしょう。ただ、3大都市圏はパートの時給が高いなど、住む場所によっては、年収を抑えるために働く時間を余計に少なくすることにもなるかもしれません。裏を返せば、時給が高ければさほど勤務時間を増やさなくても「働くことで損をしない」年収の境目まで届いてしまうケースもあるので、一度試算してみることをお勧めします。
なお、健康保険に加入することで、けがや病気で休む時の給付を受けられます。また、厚生年金に加入することで年金の2階建て部分の支給が増え、障害年金や遺族年金の受給権を持つ可能性もあります。生涯の生計やリスク対策として、プラス部分が多いことも見逃せません。
扶養を外れることでの短期的なデメリット感だけで決めつけず、プラス面の数字と比較して判断する姿勢が、老後まで見据えた資金計画の精度向上につながると考えます。
出典
(※1.)日本年金機構 短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大
(※2.)全国健康保険協会 令和3年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
(※3.)国税庁 家族と税
執筆者:伊藤秀雄
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員