更新日: 2023.02.23 控除
扶養は2種類あることを知っていますか? 「税務での扶養」と「社会保険での扶養」はどう違う?
例えば、パートで働く主婦や主夫の方なら、扶養の範囲内で働くかどうか、引退した方であれば、子の扶養になって健康保険に加入するかどうか、などを検証することで、税制面などで有利になる可能性があり、選択肢が広がる可能性があります。
もし扶養に入ることができれば、支払う税金が減る、健康保険の保険料を自分で払わずに済むなどのメリットがあります。では、どうすれば扶養に入れるのでしょうか。
実は、扶養の要件は「税務の観点」と「社会保険の観点」の2つで違いがあります。そこで本記事では、税務と社会保険の中でも特に健康保険上の扶養を中心に、その違いを解説します。
執筆者:酒井 乙(さかい きのと)
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。
長期に渡り離婚問題に苦しんだ経験から、財産に関する問題は、感情に惑わされず冷静な判断が必要なことを実感。
人生の転機にある方へのサービス開発、提供を行うため、Z FinancialandAssociatesを設立。
目次
扶養とはそもそもどんな意味?
「扶養」とは、自立して生きていくのが難しい人を援助する、という意味です(※1)。つまり、例えば高齢や障害などの理由で働くことができなかったり、育児などで働く時間がなかなか取れなかったりする方を、家族や親族で養うということです。
ただし、家族や親族で支えるには、(特に子どもが多い方などは)生活費等の費用がかかります。そこで、後述する、税務上、社会保険上の「扶養」の要件に当てはまった場合には、課税所得を低くする各種の控除が使えることがあります。
あるいは、配偶者の社会保険へ加入できるようにすることで、支える側(扶養者)、支えられる側(被扶養者)が支援を受けられるような仕組みとなっているのです。
税務における扶養の定義とは?
扶養の範囲については、税務と社会保険でそれぞれ違いがあることは前述したとおりですが、まず税務から見てみましょう。
税務では、扶養に入った配偶者がいる場合、「配偶者控除」または要件を満たせず配偶者控除が受けられない一部の方は「配偶者特別控除」が、そして配偶者以外の親族(例えば16歳以上の子や70歳以上の親)なら「扶養控除」を使うことができます。
以下のとおり、扶養する側、される側にそれぞれ細かい要件が定められています。
■扶養する側
・本人の合計所得の金額が1000万円以下であること
■扶養される側
・民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません)
・納税者と生計を一にしていること
・年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること(給与のみのケースでは給与収入が103万円以下)
・青色申告者の事業専従者として、その年を通じて1度も給与の支払いを受けていないこと、もしくは白色申告者の事業専従者ではないこと
(国税庁「No.1180 扶養控除」より、文章を一部抜粋)
■扶養する側
・本人の合計所得の金額が1000万円以下であること
■扶養される側
・民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません)
・控除を受ける人と生計を一にしていること
・その年に青色申告者の事業専従者としての給与の支払いを受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと
・年間の合計所得金額が48万円超133万円以下(平成30年分から令和元年分までは38万円を超え123万円以下、平成29年分までは38万円を超え76万円未満)であること
・配偶者が、配偶者特別控除を適用していないこと
・配偶者が、給与所得者の扶養控除等申告書または従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと
・配偶者が、公的年金等の受給者の扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと
(国税庁「No.1195 配偶者特別控除」より、文章を一部抜粋)
■扶養する側
なし
■扶養される側
・配偶者以外の親族(六親等内の血族および三親等内の姻族をいう)、または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること
・納税者と生計を一にしていること
・年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること(給与のみのケースでは給与収入が103万円以下)
・青色申告者の事業専従者として、その年を通じて1度も給与の支払を受けていないこと、もしくは白色申告者の事業専従者ではないこと
(出典:国税庁「No.1191 配偶者控除」(※2)、国税庁「No.1195 配偶者特別控除」(※3)、国税庁「No.1180 扶養控除」(※4))
納税者と生計を一にしている、とは?
前述の配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除のそれぞれに共通する要件として、「納税者と生計を一にしている」があります。これは具体的にどのような状態を指すのでしょうか。
国税庁のサイト(※5)では、「日常の生活の資を共にすること」と解説されています。ここでの「資」とは、生活するうえで元となるもの、例えば収入や財産などを差しますが、これではまだピンとこない方も多いでしょう。
実は、具体的にこの資が何を指すかは法律上も明確にされていません。言い換えると、生計を一にしているかは総合判断になります。例えば同居なら住民票のうえで同じ住所となっているか、別居ならその理由は適切か、生活費を負担しているのは誰か、などです。
もし、ご自身の場合扶養に該当するのか不安がある場合は、専門家や税務署に確認したほうがよいでしょう。
健康保険上の扶養の定義とは?
次に、健康保険での扶養の定義について見てみましょう。こちらも、健康保険法等によって細かく定められています。
<被扶養者の範囲>
■被保険者の直系尊属(父母、祖父母など)、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人(これらの方は必ずしも同居である必要はありません)
■被保険者と同一の世帯(=同居して家計を共にしている状態)で主として被保険者の収入により生計を維持されている次の人
1. 被保険者の三親等以内の親族(上記に当てはまらない人)
2. 被保険者の配偶者で、戸籍上の婚姻の届出は提出していないが事実上婚姻の関係と同様の人の父母および子
3. 2.の配偶者が亡くなった後における父母および子
■後期高齢者医療制度の被保険者でないこと
<収入の基準>
主として被保険者の収入により生計を維持されていることに加え、以下の基準により判断されます。
認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上、もしくは障害厚生年金を受給できる程度の障害者である場合は180万円未満)であり、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である場合。ただし、年間収入が130万円未満であっても、被保険者の年間収入を上回らなければ、被扶養者と認められる場合もある
認定対象者の年間の収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上、もしくは障害厚生年金を受給できる程度の障害者である場合は180万円未満)であり、かつ、被保険者からの援助による収入額より少ない場合
(出典:全国健康保険組合「被扶養者とは?」より一部抜粋、一部筆者加筆修正)
扶養の要件における税務と健康保険上の主な違いは?:収入
まず、基準となる収入があげられます。税務では、配偶者控除と扶養控除の収入要件が103万円以下(給与のみの場合)となっています。
これがいわゆる「103万円の壁」の元になっている金額ですが、その意味は、例えば主婦(または主夫)がパート収入を年間103万円以内に抑えることで、(他の要件も満たせば)その配偶者の所得から配偶者控除(または配偶者特別控除)を差し引くことができる、ということです。
一方、健康保険では収入が130万円、または障害者等の場合は180万円以下でなければなりません。こちらも一般的に「130万円の壁」と呼ばれますが、扶養される方の年間収入をこの金額以内に収めれば、(他の要件も満たすことで)配偶者の健康保険に加入できるため、自身で健康保険料を支払う必要がなくなります。
扶養の要件における税務と健康保険上の主な違い:別居の場合
税務、健康保険共に、扶養する人とされる人が別居していても、扶養が認められる場合があります。ただし、その基準は以下のような違いがあります。
税務では、例えば会社員などが勤務の都合により家族と別居している場合や、親が入院などで別居している場合でも以下に該当すると、前述の「生計を一にする」として扱うとしています。
1.生活費、学資金または療養費などを常に送金しているとき
2.勤務、修学など日常の起居は共にしていない親族が、余暇には親族のもとで起居を共にしているとき
(出典:国税庁「「生計を一にする」の意義」(※6))
一方、健康保険では、扶養する側とされる側の関係によって、別居でも扶養が認められる場合があります。
もし、扶養する相手が直系尊属(親、祖父母など)、配偶者、子、孫、兄弟姉妹であれば、その家族の年収以上の金額を仕送りしていることが必要です。対して「三親等内の親族」(例えば、配偶者の子や孫など)の場合は同一の世帯に属していることなどが必要です。
扶養に入るべきか入らざるべきか? 不安な方は専門家に相談を。
ここまで解説したとおり、扶養の基準は税務と健康保険でそれぞれ分かれているうえ、本記事では解説していない厚生年金など社会保険全般を含めると複雑になります。
しかし、本記事で解説した違いを理解することで支払う税金や社会保険料に大きな違いが生じます。また、扶養に入った場合とそうでない場合でどれだけメリットが違うのかは、人によってさまざまです。気になる方はファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することをおすすめします。
出典
(※1)厚生労働省 第3話「私的扶養と社会的扶養」
(※2)国税庁 No.1191 配偶者控除
(※3)国税庁 No.1195 配偶者特別控除
(※4)国税庁 No.1180 扶養控除
(※5)国税庁 生計を一にする
(※6)国税庁 令和4年分 確定申告書等作成コーナーよくある質問 Q「生計を一にする」の意義
全国健康保険協会 協会けんぽ
執筆者:酒井 乙
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。