少子化対策の所得税の課税方式「N分N乗方式」って何? その2
配信日: 2023.06.19
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。
現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
世帯年収800万円の片働きで夫、妻、子ども3人の世帯での比較
まずは、世帯年収800万円の片働き世帯を例に、現行の税制での課税方式とN分N乗方式での所得税計算を比較します。条件は、以下のとおりです。
家族構成 夫、妻、子(15歳以下)3人
家族の人数に応じた数字:N 1+1+0.5+0.5+1=4
※大人1、子(2人目まで)0.5、子(3人目以降)1で計算
N分N乗方式は、世帯課税所得をNで割って所得税額を計算し、その所得税額にNをかけて世帯所得税額を求めます。
図表1 単位:万円
現行の税制 | N分N乗方式 | 差額 | |
---|---|---|---|
収入 | 800 | 800 | |
課税所得金額調整 | 416.6÷4 | ||
課税所得金額 | 416.6 | 104.2 | |
所得税計算 | 416.6×20%-42.75 | 104.2×5% | |
所得税 | 40.6 | 5.2 | |
所得税調整 | 5.2×4 | ||
所得税 | 40.6 | 20.8 | △19.8 |
注)所得控除として基礎控除・社会保険料控除・配偶者控除のみを反映
※筆者作成
世帯年収800万円の片働きで夫、妻、子ども3人の世帯では、現行の税制とN分N乗方式では、所得税がN分N乗方式の方が19万8000円安くなります。
世帯年収500万円の片働きで夫、妻、子ども3人の世帯での比較
次に、世帯年収500万円のケースで比較します。条件は前述の世帯年収800万円の場合と同じです。
図表2 単位:万円
現行の税制 | N分N乗方式 | 差額 | |
---|---|---|---|
収入 | 500 | 500 | |
課税所得金額調整 | 202.5÷4 | ||
課税所得金額 | 202.5 | 50.6 | |
所得税計算 | 202.5×5% | 50.6×5% | |
所得税 | 10.1 | 2.5 | |
所得税調整 | 2.5×4 | ||
所得税 | 10.1 | 10.0 | △0.1 |
注)所得控除として基礎控除・社会保険料控除・配偶者控除のみを反映
※筆者作成
世帯年収500万円の片働き、夫、妻、子ども3人の世帯では、現行の税制とN分N乗方式での所得税はほぼ同額となります。
世帯年収別の所得税額の比較
「その1」で例にした世帯年収1000万円の片働き・共働き世帯と合わせて、所得税額の比較をまとめると図表3のとおりです。
図表3
1 | 2 | 3 | 4 | |
---|---|---|---|---|
世帯年収 | 1000万円 | 1000万円 (夫600万円・妻400万円) |
800万円 | 500万円 |
働き方 | 片働き | 共働き | 片働き | 片働き |
世帯課税所得金額 | 587.2万円 | 477.7万円 | 416.6万円 | 202.5万円 |
現行税制による 所得税率 |
20% | 10%・5% | 20% | 5% |
現行税制による 所得税額 |
74.7万円 | 29.4万円 | 40.6万円 | 10.1万円 |
N分N乗方式による 所得税率 |
5% | 5% | 5% | 5% |
N分N乗方式による 所得税額 |
29.2万円 | 24万円 | 20.8万円 | 10.0万円 |
現行税制とN分N乗方式による所得税額の差 | △45.5万円 | △5.4万円 | △19.8万円 | △0.1万円 |
※筆者作成
図表3を見ると、所得が多い片働きの世帯においてはN分N乗方式による所得税減額の効果が大きいですが、所得が少なくなるにつれて効果がなくなることが分かります。
世帯年収1000万円で現行税制との差は△45万5000円ですが、世帯年収500万円ではほとんど差がありません。これは、世帯年収が少なくなれば所得税率が最低税率の5%になってしまい、世帯員数で割る効果がなくなってしまうからです。
また、同じ世帯年収1000万円での片働き世帯と共働き世帯の例を比較すると、片働き世帯の現行税制による所得税率が20%であるのに対し、共働き世帯では夫10%、妻5%なので、N分N乗方式により最低税率の5%になったとしても、共働き世帯の効果は小さいということになります。
まとめ
N分N乗方式は、子どもを増やすことにより節税が図れますが、世帯年収や働き方によって効果に差が出てしまうので、広い範囲で効果を生むことができないというデメリットがあります。
少子化対策については、今後、国会でどんな論戦が繰り広げられるのかが注目されます。
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー