サラリーマンの10万人に3人しか使っていない!?特定支出控除制度が「使えない」理由
配信日: 2018.10.22 更新日: 2019.08.27
ところが、実際この制度を使っている人は、平成25年度の数字で、給与所得者約5500万人のうちの1600人程度、10万人に3人くらいしかいません。そして、それ以降も伸び悩んでいるようです。
この制度が、なぜそんなにも使われていないのか、制度自体の考え方も含めて説明したいと思います。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。
現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
特定支出控除とは?
特定支出として認められる経費は次のものです。
通勤費、転居費、研修費、資格取得費、帰宅旅費、勤務必要経費(図書費、制服・作業服等の衣服費、交際費)の6つです。
国税庁のタックスアンサーNo.1415の記述によれば、以下の通りとなっています。
1 一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出(通勤費)
2 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出(転居費)
3 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出(研修費)
4 職務に直接必要な資格を取得するための支出(資格取得費)
※平成25年分以後は、弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費も特定支出の対象となります。
5 単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出(帰宅旅費)
6 次に掲げる支出(その支出の額の合計額が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限ります)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明がされたもの
(勤務必要経費)
(1)書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用(図書費)
(2)制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用(衣服費)
(3)交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出(交際費等)
これらの費用を特定支出として認めてもらうためには、領収証を添付するだけでなく、経費ごとに国税庁の様式に従い、会社が承認した証明書を添付することが必要となります。
特定支出を受けるための高いハードル
納税者からみて特定支出控除を使いにくいものにしているハードルは、主に次の2つです。
(1)経費ごとに会社からの業務に必要であるとの証明書をもらう必要があり、その条件が厳しいこと。
(2)これらの経費には、全額または一部は会社が負担してくれるものがあり、かつ、特定支出として認められた経費のうち、所得控除の対象となる額は、給与所得控除の2分の1を上回った部分なので、金額的に多くの部分が足切りの対象となってしまうこと。
これらについて、1つずつ説明していきましょう。
(1)について、通勤費には「運賃、時間、 距離その他の事情に照らして最も経済的かつ合理的」であることという限定がついていますし、研修費・図書費そして衣服費(制服費等)では「職務の遂行に直接必要なものであること」という条件がついています。
また、会社側からみれば「会社が証明する以上、それが、適正な金額かどうか」もチェックする必要が出てきます。
「スーツの費用を会社に必要経費として認めてもらえる」といううたい文句がありましたが、まず、スーツが「職務の遂行に直接必要なもの」なのかどうかは議論のあるところでしょう。また、仮に会社がそれを認めたとしても、金額的にはこれは「ぜいたく品ではないか」「経費として妥当か」という問題が発生し、ややこしいことになります。
(2)については、上記にあげた「通勤費」や「衣服費」は通常、会社が負担していることが多く、その場合は対象からはずれます。それに加え、それらの費用を負担してくれない会社に勤めていたとして、かなりの金額の特定支出が認められたとしても、各申請者の給与所得控除の2分の1を超えた部分しか特定支出控除として認められません。
具体的には次の通りとなります
■収入金額
400万円
■給与所得控除の2分の1
77万円
■収入金額
500万円
■給与所得控除の2分の1
77万円
■収入金額
600万円
■給与所得控除の2分の1
87万円
■収入金額
700万円
■給与所得控除の2分の1
95万円
■収入金額
800万円
■給与所得控除の2分の1
100万円
これをみて、お分かりのように、かなり大きな金額でないと特定支出控除を受けられません。
例えば、年収600万円の人に96万円の特定支出が認められたとしても、特定支出控除額:96万円 - 87万円 = 9万円還付または減額される税金9万円 × 20% = 1万8000円軽減税額は2万円弱にしかなりません。要するに、足切りが高すぎるのです。
なぜこんな税制が存在するのか?
一般的に、サラリーマンは自営業者と違い、経費が認められないといわれています。
しかし、その議論はあたっていません。給与所得者には大きな給与所得控除が認められているのです。上記の表では2分の1となっているため、その倍の金額が給与所得控除にあたります。
年収400万円から800万円の給与所得者で、134万円から200万円の給与所得控除が自動的に認められています(自営業者が経費の1つ1つに領収証を添付して申告しなければいけないのに比べてかなり有利です)。
スーツなどの費用は給与所得控除で控除されているのです。ですから、この特定支出控除制度を作った目的は、正直いって不可解です。あえていうなら、例えば、弁護士事務所や会計士事務所に勤めていて、資格取得のための費用や図書費が数十万円を超えてしまったというようなケースです。
この制度は、直接仕事に関係する経費をかなり多く使ってしまった人への、救済措置という意味合いのものと思われます。
参考・出典:
国税庁ウェブサイト
ホーム/税の情報・手続・用紙/税について調べる/タックスアンサー(よくある税の質問)/所得税/No.1415 給与所得者の特定支出控除
Text:浦上 登(うらかみ のぼる)
CFP ファイナンシャルプランナー