所得税が計算される流れを知っておくと、「103万円の壁の引き上げ」がすぐに「減税」政策であると分かる
配信日: 2025.01.19
これをきっかけに、所得税の仕組みに関心を持つ人が増えたことでしょう。今回はマネーリテラシーを高めることを目的に、所得税の計算について簡単に見ていきます。
執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
所得税の計算の流れ
図表1は、所得税の計算の流れを示したものです。この流れを覚えておくと、ニュースなどで発信される所得税制の改正についてすぐに意味が分かるようになります。
図表1
※国税庁「所得税のしくみ」より引用
まず、Aの部分には「所得金額」の求め方が記されています。図表1の計算式には、「(収入金額)-(収入から差し引かれる金額)=所得金額」とあります。例えば会社員の場合、収入から差し引かれる金額が給与所得控除額になりますが、年収から給与所得控除額を差し引き、所得金額が求められます。
ここで覚えておきたいのが、「収入と所得は意味が違う」ということです。収入は単純に「稼いだ金額」ですが、所得は「収入から必要経費とされる一定の金額を差し引いたもの」です。
所得金額を計算した後は、Bの「課税所得金額」を求めます。
課税所得金額とは、所得税の算出対象になる所得金額のことです。ここでは、所得金額からいわゆる「所得控除」の額が差し引かれます。所得控除は基礎控除や扶養控除、配偶者控除など15種類あり、要件を満たせば所得金額から差し引くことができます。
そして課税所得金額を計算した後、所得税率を掛け、Cの「所得税額」を求めます。
なお、D以降の計算は少し難しくなるため、ここでは割愛します。
103万円の壁を引き上げることは、所得税の減税につながる
それでは、「103万円の壁が引き上げられると所得税がどうなるか」という話に移ります。
例えばパート主婦(主夫)の場合、計算式は以下のようになります。
A:収入金額-給与所得控除=所得金額
B:所得金額-所得控除(基礎控除)=課税所得金額
C:課税所得金額×所得税率=所得税
「103万円の壁を引き上げる」という話は、所得控除である「基礎控除」を引き上げるという話です。これをBの計算式に当てはめると、基礎控除が増えるため、課税所得金額が減ることが分かります。
つまり「103万円の壁を引き上げる」ということは、基礎控除を引き上げることで課税所得が減るため、所得税の金額も減ることにつながります。
まとめ
所得税が計算される流れを知っておくと、例えば今回の103万円の壁引き上げについて、すぐに「減税政策である」と判断することができます。ほかにも、例えば所得控除のうち寄附金控除を活用した「ふるさと納税」についても、利用したほうがよいと判断できます。
さらにiDeCo(個人型確定拠出年金制度)についても、掛金が「小規模企業共済等掛金控除」と呼ばれる所得控除であるため、すぐに「減税政策である」と理解することができます。
税金のことを知ることは、何も「損得勘定の話」だけではなく、「何のためにそのような税制にしているか」を理解することでもあります。国の政策の意図が分かれば、おのずと国がどのように国家の運営をしていこうとしているか見えてくるため、税金を知ることは家計だけでなく人生に取っても有意義なことであるといえるでしょう。
出典
国税庁 所得税のしくみ
国税庁 No.1100 所得控除のあらまし
国税庁 No.1410 給与所得控除
国税庁 No.1199 基礎控除
国税庁 No.2260 所得税の税率
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)