現在は扶養内で働いていますが、パートでも社会保険に加入するメリットはありますか? また、例えば1年間加入した場合「年金額」はどのくらい増えるものなのでしょうか?
配信日: 2025.03.16

社会保険の被扶養者であることのメリットには、社会保険料(健康保険料や国民年金保険料など)を自ら負担する必要がないうえに、一定の給付などを受けることができる点が挙げられます。
本記事では、被扶養者となることができる現状での要件を確認し、また、仮にパートとして月10万円の収入を得た場合は将来受け取る年金額がどのくらい増えるのか、試算していきます。

執筆者:高橋庸夫(たかはし つねお)
ファイナンシャル・プランナー
住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。
「106万円の壁」と「130万円の壁」
今話題の「103万円の壁」とは「所得税等が課税されるか否かの基準」ですが、本記事では、それとは別の「社会保険の被扶養者となるか、自ら社会保険に加入する必要があるかの基準」となる2つの壁について確認していきます。
(1)106万円の壁
パート・アルバイトなどの短時間労働者が以下の全ての要件に該当する場合には、自ら社会保険に加入することとなります。
1)週の労働時間が20時間以上
2)学生ではない
3)所定内賃金が月8万8000円以上(年106万円、残業代や賞与等は含まず)
4)2ヶ月以上の雇用の見込み
5)従業員数が51人以上の勤め先
なお、厚生労働省では上記の壁の撤廃に向けて、2026年10月から収入金額の要件(上記の3)を撤廃、2027年10月からは事業所の規模要件(上記の5)を撤廃する方針としています。ただし、週の勤務時間20時間以上(上記の1)の要件は維持される予定となっています。
(2)130万円の壁
年収130万円以上(残業代等を含む)になると、全ての人が被扶養者から外れることになります。被扶養者とは、日本に住所があり、年収130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)で、かつ収入が被保険者の年収の2分の1未満である扶養家族と定義されています。
仮にパートで月10万円稼いだら
月10万円の収入(年収120万円)で社会保険に1年間加入する場合、将来(65歳以降)どのくらいの年金を受け取れるのでしょうか?
老齢厚生年金の受給額は、厚生年金に加入していたときの報酬額や加入期間等に応じた算式(平均標準報酬額×5.481÷1000×2003年4月以後の被保険者期間の月数)で計算されます。1年間加入した場合は、6577円の年金額を老齢厚生年金として老齢基礎年金に加えて受け取ることができます。
逆に、被保険者となることによる社会保険料の自己負担の増加額は、40歳未満の場合、健康保険料4890円+厚生年金保険料8967円で月額1万3857円、1年間で16万6284円の負担増となります。
仮に、1年間の加入の際に負担する社会保険料16万6284円を65歳以降に受け取る年金額で回収すると仮定すると、約25.3年を要することになります。
社会保険に加入するその他のメリット
老齢厚生年金の受給額が増加することのほかにも、社会保険に加入すると以下のようなメリットがあります。
(1)傷病手当金・出産手当金
一定の要件を満たすことで、国民健康保険にはない傷病手当金や出産手当金を受け取ることができます。けがや病気、出産などで仕事ができない期間について、おおむね給与の3分の2相当が支給されます。
(2)障害厚生年金の上乗せ
厚生年金に加入している間に初診日のある病気やけがで障害基礎年金の1級または2級に該当する障害の状態になったときは、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金が支給されます。
軽い程度の障害のときは、3級の障害厚生年金や障害手当金(一時金)が受給できる場合があります。なお、障害厚生年金は、老齢厚生年金とは違い、加入期間が短くても一定(300月分)の給付が確保されます。
(3)遺族厚生年金の上乗せ
厚生年金の被保険者が亡くなったとき、一定の要件を満たすことで、遺族が遺族基礎年金に上乗せして遺族厚生年金を受給できる場合があります。
まとめ
政府は、年収の壁・支援強化パッケージとして、収入が一時的に増加した場合に、事業主がその旨を証明することで連続2回まで被扶養者認定を可能とする支援措置を講じています。
2024年から年収の壁の撤廃について国民の注目が注がれており、社会保険の年収の壁に関してもさらに変化していくものと思われます。
今後は、このような状況を踏まえつつ、それぞれの家計の状況に応じたメリット、デメリットを考慮し、最適な働き方を選択していくことが重要となるでしょう。
出典
厚生労働省 年収の壁・支援強化パッケージ
全国健康保険協会 協会けんぽ 被扶養者とは?
日本年金機構 老齢年金ガイド
全国健康保険協会 協会けんぽ 病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
日本年金機構 障害年金
厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト パート・アルバイトのみなさま
日本年金機構 遺族年金
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー