「60歳」で「iDeCo」の老齢一時金を受け取った後、「65歳」で会社から「退職金」を受け取る予定です。退職所得控除をフルで2回使えますか?
配信日: 2025.04.07


執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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退職金の税金
iDeCoは原則として60歳以降に、 年金または一時金として給付金を受け取れます。
一時金として受け取る場合は、退職金などと同様「退職所得控除」が受けられます。退職所得の金額は、「(退職金額-退職所得控除額)×1/ 2」で計算します。また、退職所得控除額は次の計算式で求めます。
■退職所得控除の計算式
●勤続20年以下 : 40万円 × 勤続年数(80万円未満の場合は80万円)
●勤続20年超 : 70万円 ×(勤続年数 – 20年) + 800万円
たとえば、退職金2000万円、勤続年数29年1ヶ月(30年とみなす)の場合の退職所得の金額は、250万円((2000万円-1500万円)×1/ 2)となります。退職所得の特徴は、「大きな退職所得控除」「2分の1課税」「分離課税」といった優遇税制にあります。
退職所得控除の調整
現行制度では、会社から退職金の支払いを受ける前年以前「4年以内」にiDeCoの老齢一時金を受け取った場合、退職所得控除の計算上、勤続年数の重複を排除して計算を行います。したがって、この場合は会社から受け取る退職所得の計算上、退職所得控除を満額利用できない可能性があります。
たとえば、22歳から38年間会社に勤務して60歳で退職金を受け取り、iDeCoは50歳から10年間掛け金を拠出し60歳で老齢一時金を受け取るケースで考えてみます。
会社の退職金には、2060万円(800万円+70万円×(38年-20年))の退職所得控除が、iDeCoの老齢一時金には400万円(40万円×10年)の退職所得控除が計算できます。
このように、会社の退職金とiDeCoの老齢一時金を60歳で同時に受け取る場合や、あるいは先にiDeCoの老齢一時金を受け取り「4年以内」に会社から退職金を受け取る場合、重複期間であるiDeCoの10年間に対する退職所得控除は調整され、使える退職所得控除は2060万円のみです。
一方で、iDeCoの老齢一時金を受け取った5年後に退職金を受け取ると、400万円、2060万円の退職所得控除がそれぞれ利用可能であるため、より多くの金額を非課税で受け取れます。
なお、会社からの退職金を先に受け取る場合には注意が必要です。
この場合「19年以内」というルールがあり、その期間内の受け取りは二重で控除が適用されないようになっています。iDeCoへの加入は75歳までなので、退職所得控除を2回フルに使うためには遅くとも55歳で退職する必要があります。
退職所得控除の調整規定等の見直し
現行制度では、会社から退職金の支払いを受ける前年以前「4年以内」にiDeCoの老齢一時金を受け取った場合、退職所得控除の計算上、勤続年数の重複を排除して計算を行いますが、改正により「4年以内」が「9年以内」に変更になる予定です。
つまり、iDeCoの老齢一時金を60歳に受給するとした場合、会社からの退職金の退職所得控除を満額利用できる年齢が、65歳から70歳になります。
この改正は、2026(令和8)年1月1日以後にiDeCoの老齢一時金の支払いを受け、同日以後に支払いを受けるべき会社からの退職金について適用されます。
退職所得控除を最大限に活用するためには、iDeCoの老齢一時金を受け取るタイミングをよく考えましょう。場合によっては「年金」での受け取りも検討することをお勧めします。
出典
国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
国税庁 法第30条《退職所得》関係
国税庁 前の退職手当等が同一年に複数ある場合の退職所得控除額の計算の特例について
iDeCo公式サイト
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。