返戻品目的で「ふるさと納税」をしたら、自治体からの税金流出で“サービスの質”が低下!? ふるさと納税って「しないほうがいい」の? 仕組みや問題点を解説
本記事では、ふるさと納税の基本的な仕組みから、「居住地の住民サービス低下」が気になる場合に考えておきたいことまで、わかりやすく解説していきます。
FP2級・AFP、国家資格キャリアコンサルタント
「ふるさと納税」の基本的なしくみをおさらい
ふるさと納税とは、自分の「生まれ故郷」や「応援したい自治体」に寄附ができる制度のことです 。寄附をすると、寄附額に応じて所得税や住民税から控除が受けられ、さらにその自治体から「返礼品」として地域の特産品などが贈られてくるのが特徴です。
ふるさと納税の本来の目的は、地方部と都市部の税収格差を是正し、地方の活性化を促すことにあります。寄附者は、自分が応援したい自治体を選ぶことで、その地域の発展に貢献できるという側面も持ち合わせています。
「実質負担2000円」と言われるのは、寄附額から2000円を差し引いた残りの全額が、所得税と住民税から控除されるためです。例えば、3万円をふるさと納税として寄附した場合、2000円は自己負担となりますが、残りの2万8000円は所得税・住民税から差し引かれる仕組みになっています。
ただし、以下のように住民税からの控除額(特例分)が、住民税所得割額の2割を超える場合は、実質負担額が2000円を超えることに注意が必要です。
(ふるさと納税額-2000円)×(100%-10%(基本分)-所得税の税率)
ふるさと納税の手続きは大きく分けて2つあり、1つは「ワンストップ特例制度」を利用する方法です。これは、確定申告が不要で、5自治体までの寄附であれば簡単な申請書を提出するだけで税金控除が受けられる制度です。
もう1つは、確定申告を行う方法です。こちらは、6自治体以上に寄附した場合や、もともと確定申告が必要な人が利用します。いずれの場合も、寄附後に自治体から送られてくる「寄附金受領証明書」が重要になりますので、大切に保管しておきましょう。
ふるさと納税で「税金が流出する」は本当? 何が問題?
住民がふるさと納税をすればするほど、特に都市部の自治体が赤字になってサービスの質が低下するのでは? という懸念は制度の成立当初からあり、現実に起きつつあります。
例えば、2025年度における東京都世田谷区の「住民税流出額」は123億円にのぼると予想され、制度開始以来の累積額だと実に700億円近く、区役所の建て替え工事ができるほどであるとされています。
ただ、これは「ふるさと納税制度」の本来の目的が「地方部と都市部の税収格差を是正し、地方の活性化を促すこと」であることを考えると、まったく狙い通りの現象が起きているだけであると言えます。
問題は、それによって都市部市町村の公教育や地域の道路整備など、市町村が行うべき公的な住民サービスが、住民が受け入れられるレベル以下に低下するかどうかです。
世田谷区の例で言えば、本来の2025年度における予算は3996億円、住民の所得増加から区民税が増収となっており、ふるさと納税の流出分をカバーできているとされています。一方、都市部でも公立小中学校の給食などが貧弱になっているという報道も相次いでいます。
このような現実を踏まえた上で、「ふるさと納税」をするかしないかは、それぞれの住民が判断していかなければいけないでしょう。
ちなみに、10年以上前になりますが、筆者は当時地方自治体の職員で、「ふるさと納税」に関する研修を受け、「推進派」の研修講師とケンカに近い議論をしたことがあります。
当時の筆者の懸念は「実質的に高額納税者がより優遇される制度であり、地方自治体間の格差はともかく、個人間の格差がますます拡大するのではないか」というものでしたが、それに加えてこのような現象が起きるのは想定外でした。
「ふるさと納税」は政策としては大成功と言えると思いますが、その影響に関して、改めて現実を踏まえた議論をする時期になっているのではないでしょうか。
まとめ
ふるさと納税の制度により、都市部から地方部への税金流出は現実として起きており、その規模は拡大しています。ただ、これは「地方部と都市部の税収格差を是正する」という、ふるさと納税の目的どおりの現象です。
ふるさと納税は公に認められた正式な制度で、「ふるさと納税をするか、しないか」は、すべて国民の判断に任されているものです。ひとりの自治体住民としてはこのような現実を頭に入れたうえで、「ふるさと納税」をどう活用するかを考えなければならないでしょう。
出典
総務省 ふるさと納税ポータルサイト
執筆者 : 山田圭佑
FP2級・AFP、国家資格キャリアコンサルタント
