医療費控除や遺族年金など制度で「生計を一にする」という表記を見るけど、夫婦どちらも会社員の場合はどうなるの?

配信日: 2025.09.13
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医療費控除や遺族年金など制度で「生計を一にする」という表記を見るけど、夫婦どちらも会社員の場合はどうなるの?
医療費控除や遺族年金の申請書などでよく見かける、「生計を一にする」という文言。「夫婦どちらも会社員で、別々に稼いでいる場合はどうなんだろう?」と迷った経験はありませんか?
 
夫婦のどちらかが扶養に入っているならともかく、どちらも自立した収入がある「共働き世帯」では、生計が別と判断されてしまうのでは……と思われる方も多いはずです。
 
しかし結論からいえば、共働きであっても、生活を一緒にしているなら生計を一にするとされるのが基本です。
 
そこで本記事では、「生計を一にする」とはどんな意味か、共働き夫婦はどのように扱われるのか、そして実際にこの関係が求められる制度や注意点を解説します。
富澤佳代子

1級ファイナンシャルプランニング技能士・CFP®認定者/中小企業診断士

新卒で警察官としてキャリアをスタート。その後、都内税理士法人で勤務し、多くの企業の経理業務を手がけた経験を活かして独立しました。現在は、「会社のお金」と「家庭のお金」をワンストップで相談できるパートナーとして活動しています。
 
小学生の子どもを育てるママでもあり、ライフプラン作成やキャッシュフロー分析など、個人やご家庭向けの具体的で実用的なアドバイスを提供しています。
 
企業経理相談や経営分析にも精通しており、これまでの経験を基に、経営者が抱えるお金の悩みに幅広く対応。さらに、執筆やセミナー活動も行い、「知って得するお金の知識」を届けています。お金の管理や経営に関するお悩みがある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

「生計を一にする」の意味とは?

まずは、「生計を一にする」という言葉の正しい意味を確認しておきましょう。
 
この言葉は、税法・年金法・社会保障制度などで使われる考え方で、単なる同居や戸籍上の関係だけではなく、実際の生活実態に基づいて判断されるものです。
 
国税庁の説明では、「日常生活の資を共にすること」をいい、仕事や修学、療養などのために親族と別居していたとしても、次のような場合には「生計を一にする」とみなされます。
 

・仕送りや学費、治療費などを継続的に負担している場合
・普段は別々に暮らしていても、休暇や休日は一緒に生活している場合

 
つまり、一緒に住んでいるかどうかにかかわらず、生活を支え合っている実態があれば「生計を一にしている」とみなされるのです。
 
また、厚生労働省ではこの概念を「生計同一関係」と呼び、年金や社会保険制度のなかで次のような基準を設けています。
 

・住民票上で同じ世帯に属していること
・別世帯でも、同じ住所に実際に暮らしていること
・離れて暮らしていても、定期的に生活費や医療費の仕送りなどがあること

 
このように、形式的な住民票や住所だけでなく、経済的・生活的なつながりが重視されるという点で、国税庁と同様の実態重視の姿勢が見られます。
 
逆に、たとえ住所が同じでも完全に家計が分かれ、経済的に独立している場合には「生計を一にする」とはいえないこともあります。ただし、そのようなケースはあくまで例外と考えられます。
 

「生計を一にする」と「扶養」「生計維持」は違う?

「生計を一にする」という言葉は、「扶養」や「生計維持」といった言葉と同じ場面で登場することが多いため、これらはすべて同じ意味だと考えてしまいがちです。特に、「扶養していない=生計を一にしていないのでは?」と誤解されることもあります。
 
しかし、実はそれぞれ別の考え方を指しています。
 
「扶養」は、税金の控除を受けるための概念で、対象となる人の所得制限などが条件になります。一方で「生計維持」は、社会保険や年金の制度において、主に生活を支えている関係を示すための考え方です。
 
そして「生計を一にする」は、扶養かどうかにかかわらず、同じ家計で生活していたり、生活費を分担していたりする実態があれば成立します。つまり、言葉は似ていますが、それぞれ異なる制度で使われていて、別の基準で判断されているのです。
 

「生計を一にする」で受けられる制度

では、実際に「生計を一にする」関係で受けられる制度を見てみましょう。
 

■医療費控除(所得税)

〈制度概要〉
1年間に支払った医療費の合計が一定額を超えた場合に、所得から控除できる制度です。確定申告で申請することで、納めすぎた税金が還付される可能性があります。
 
〈対象となる人〉
自分自身だけでなく、生計を一にする家族(配偶者、子、親など)の医療費も合算して申告できます。

 

■国民年金の死亡一時金

〈制度概要〉
国民年金の第1号被保険者として一定期間保険料を納めた人が、年金を受け取ることなく亡くなった場合に、その遺族に支給される一時金です。
 
〈対象となる人〉
亡くなった方と生計を一にしていた遺族(配偶者、子、父母、孫、兄弟姉妹など)。

 

■遺族年金(遺族基礎年金・遺族厚生年金)

〈制度概要〉
国民年金や厚生年金の被保険者が亡くなったとき、一定の遺族(配偶者や子など)に支給される制度です。
 
〈対象となる人〉
亡くなった人に「生計を維持されていた」配偶者や子。年収850万円未満などの所得制限があります。
 
※この制度では所得制限がありますが、配偶者が年収850万円未満であれば、共働きであっても該当する可能性があります。

 
このように、制度によっては収入に関係なく、生活を共にしているかどうかが判断基準になるものもあるのです。
 

まとめ

「生計を一にする」という言葉は、一見あいまいに思われるかもしれませんが、制度上定義されており、共働きであっても多くの場合で要件を満たすとされています。「うちは共働きだから対象外かも……」と自己判断で諦めてしまうのは、非常にもったいないことです。
 
制度の文言は専門的で少し難しく感じられるかもしれませんが、本記事が「自分たちのケースはどうだろう?」と考えるきっかけになればうれしく思います。もし何か迷ったときは、一人で判断せず、税務署や年金事務所、社会保険の窓口などで気軽に相談してみてください。
 
正しい情報と判断で、使える制度をしっかり活用していきましょう。
 

出典

国税庁 生計を一にする
厚生労働省 生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて〔国民年金法〕
国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
日本年金機構 遺族年金ガイド 令和7年度版
 
執筆者 : 富澤佳代子
1級ファイナンシャルプランニング技能士・CFP®認定者/中小企業診断士

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