元上司から「退職金を受け取った翌年の住民税が高額」だったと聞きました。私も来年「退職金2000万円」を受け取る予定ですが、住民税はどのくらいになりますか?
実際には退職金は特別な税制があって、多くの場合は「翌年の住民税」には直結しません。退職金の税制のしくみについて理解しながら、具体的にいくらくらいの負担になるのかを確認しましょう。
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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退職金と住民税の関係
まず理解しておきたいのは、「退職金は原則として分離課税」であるということです。給与や年金のように毎年の所得と合算されることはせず、退職所得という独立した課税枠で計算されます。そのため退職金が2000万円であっても、翌年の住民税の基礎になることはありません。
誤解が生じるのは、「所得というからには給与と同じ扱い」という思い込みからです。
退職所得控除
退職金にかかる税金を計算するには、「退職所得控除」を差し引くことからはじめます。計算式は以下のとおりです。
・勤続年数20年以下の場合:40万円×勤続年数(最低80万円)
・勤続年数20年超の場合 :800万円+70万円×(勤続年数-20年)
例えば勤続年数30年の場合、「800万円+70万円×(30年-20年)=1500万円」となります。2000万円の退職金のうち課税されるのは、2000万円から1500万円を差し引いた500万円に対してです。
住民税の計算
結論からいうと、控除後・2分の1後の退職所得に対して一律10%です。2000万円勤続30年で退職金2000万円の場合の退職所得250万円、それに対して一律10%の税率を掛けて25万円となります。これが、翌年度に課税される住民税です。
なぜ住民税が高額といわれるのか?
それなのに、なぜ住民税は高額といわれるのか、考えられる理由をあげてみました。
まず考えられるのが、勤続年数が短かったのではないでしょうか。勤続年数が短いと控除額が小さくなり課税対象が大きくなります。具体的には1年あたりの控除額が20年までであれば、勤続1年間あたり40万円、20年を超えると21年目からは勤続1年間あたり70万円です。
2つめには、アルバイトや年金収入など、他の収入と合算してしまった結果として税額が増えたというケースも考えられます。先に述べた、「退職所得については別計算で」というのをやらなかったため、退職所得独自のメリットを受け損ねてしまったのかもしれません。
3つめには、一時金ではなく年金形式の退職金であったことによるものかもしれません。退職年金は給与所得扱いですので、計算方法が一般の所得税・住民税の計算方法と同じになります。大きく控除したあとでさらに2分の1にするという優遇的な計算式に該当しなくなってしまいます。
4つ目としては、前年まで給与収入があった影響により住民税の負担がダブルで課税されたように見えたため、ということもあるでしょう。
実務上の注意点
退職所得の税務処理は、源泉徴収でほぼ完結します。退職金から所得税・住民税は天引きされますので、基本的に確定申告は不要です。退職所得の受給に関する申告書を会社に提出すると正しい控除が適用され税額が軽減されます。提出しなければ、一律20.42%の課税となりますので注意が必要です。
市区町村役場で納付する場合、住民税の支払い時期は、通常退職翌年の6月からの分割払いです。25万円のケースならば年4回に分けて支払います。ただし、退職時期により異なりますので留意しましょう。
まとめ
退職金2000万円を受け取ったからといって、翌年の住民税が数百万円単位で跳ね上がるわけではありません。勤続30年ならば、控除額も大きく実際の負担は25万円程度です。
大切なのは、「退職所得控除」と「2分の1課税」という特例を理解することです。誤解・不安を避けるためにも事前に控除額を確認し、必要書類を会社へ提出しておきましょう。
出典
国税庁 B1-2 相続税の申告手続
国税庁 第51条関係 相続があった場合の差押え
執筆者 : 柴沼直美
CFP(R)認定者
