被災した場合の所得控除「雑損控除」ってなに? 適用要件や金額について解説
配信日: 2019.11.13
いずれも、規模としては過去に類を見ない被害をもたらしていますが、私たちにとって、国や自治体による支援制度を事前に知っておくことは必要なことのように思います。
税金に関する特別措置にはさまざまな種類がありますが、中でも、被災した場合に所得税が軽減できる「雑損控除」は比較的身近な存在かもしれません。
執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
所得税の簡単な計算式
雑損控除は「所得控除」のひとつです。例えば、会社員などの給与所得者の場合、所得税の簡単な計算式はおおむね次のようになります。
1.年収 - 給与所得控除 = 給与所得金額
2.給与所得金額 - 所得控除 = 課税所得金額
3.課税所得金額 × 所得税率 = 所得税
雑損控除は、2の式にある「所得控除」の話なので、この金額が計上できると、結果として、納める所得税の金額は軽減される可能性があります。
雑損控除とは
雑損控除とは、そもそも、災害・盗難・横領によって、資産に損害を受けた場合に、一定の金額が所得控除される税制です。このため、今年だけに限定しても、多発する台風被害について、要件を満たせば、多くのご家庭で適用を受けられる可能性があります。
雑損控除の適用要件
雑損控除を受ける際の要件にはいくつかあります。まず、資産の所有者が誰かですが、次のいずれかに当てはまる必要があります。
1.納税者
2.納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族で、その年の総所得金額等が38万円以下の者
1・2のいずれかに当てはまればいいので、多くの人が対象になると思います。
そして、損害の原因として、次のいずれかの場合が対象となっています。
1.震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
2.火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
3.害虫などの生物による異常な災害
4.盗難
5.横領
今年の台風被害のケースでは、風水害に当たるため、まさに対象となる災害といえます。
雑損控除の金額
実際に、雑損控除を受ける際は確定申告で行いますが、雑損控除の金額としては、次のうち、いずれか多い方の金額を計上します。
1.「差引損失額」-「総所得金額」×10%
2.「差引損失額のうち災害関連支出の金額」- 5万円
ここで知っておきたいことは、損失額が大きくて、その年の所得金額から控除しきれない場合は、翌年以降(3年間が限度)に繰り越し控除できることになっている点です。
場合によっては、このようなご家庭もあるため、この点は注意しておきましょう。差引損失額の意味は、次の計算式を見るとわかりやすいかもしれません。
「差引損失額」=「損害金額」+「災害関連支出」-「保険金など」
つまり、災害で資産に損失が発生し、また、それをカバーするために使ったお金から、火災保険などの保険金を差し引いた金額が差引損失額になります。
ここでいう「災害関連支出」の金額は、災害により滅失した住宅や家財などを取り壊したり、除去したりするために支出した分です。
想定すべきことは保険金で損失をカバーできないケースです。火災保険などでは、補償内容によっては免責金額が設定されていることがあるため、このような場合は特に、雑損控除の効果が発揮される可能性が高まります。
確定申告は、原則、自分で行うものです。会社員などの給与所得者の場合、例えば、住宅ローンを組まなければ、なじみが薄い方も多いと思いますが、り災した場合、このような案内もあることから、漏らさずに申告するようにしましょう。
出典:国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)