所得の課税方式について その2 損益通算
配信日: 2020.06.26
不動産所得(ふ)
事業所得(じ)
山林所得(さん)
譲渡所得(じょう)
の4種類ですが、総合課税の対象となるのは、その1で述べたように8種類です。また、山林所得は分離課税です。損益通算とはどういう制度なのでしょうか?その2では、損益通算について解説してみたいと思います。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
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現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
損益通算とは?
損益通算とは、それぞれの所得における黒字と赤字を相殺する計算のことです。
所得が黒字=利益があるときは、総合課税の所得についてはそれぞれの所得を合算します。分離課税の所得があるときは、その所得で決められた計算方法で税金を計算することになります。
所得が赤字(=損失がある)のときに、ほかの所得の黒字と相殺できる所得の数は限られています。それが冒頭で述べた「富士山上」の4つ、不動産所得(ふ)、事業所得(じ)、山林所得(さん)、譲渡所得(じょう)です。
10種類ある所得のうち、「富士山上」以外の6つの所得に関して国税庁は次のとおり説明しています。
1 利子所得及び退職所得は、所得金額の計算上損失が生じることはありません。
2 配当所得、給与所得、一時所得及び雑所得の金額の計算上損失が生じることはありますが、その損失の金額はほかの各種所得の金額から控除することはできません。
6つの所得は、先物取引や仮想通貨などに関する雑所得を除けば、赤字が出ても大きな金額になることはまずないといえます。
損益通算対象の4つの所得
それでは、損益通算の対象となる4つの所得について見ていきましょう。
1.不動産所得
土地・建物など不動産の貸し付けによる所得です。不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額のうち、以下のような損失の金額は、その損失が生じなかったものと見なされ、他の各種所得の金額から控除することはできません。
(1)別荘のように通常生活に必要ではない資産の貸し付けに関するもの
(2)土地を取得するために要した負債の利子に相当する部分
(3)特定の組合契約を基に運営される事業から生じたもので、その組合の特定組合員に関するもの
2.事業所得
飲食店、製造業、農業などのビジネスから生じる所得です。
3.山林所得
山林を伐採して譲渡、または立木のまま譲渡した場合の所得ですが、分離課税にされているにもかかわらず、赤字が出た場合は他の所得の黒字から差し引くことができる(=損益通算できる)ので、税制的には優遇されている所得といえます。
4.譲渡所得のうち、一定のもの
総合課税の譲渡所得とは、土地・建物、株式以外の資産を売ったときに発生する所得です。
具体的にはゴルフ会員権、金地金、著作権、特許権、実用新案権等が挙げられますが、このうち損益通算の対象となるのは金地金、著作権、特許権、実用新案権などです。ゴルフ会員権に関する譲渡所得の損失は対象になりません。
(注)譲渡所得のうち、分離課税となるもの(土地・建物、株式などの資産に関する譲渡所得)については原則として損益通算は認められません。
(1)株式などの譲渡にかかる損失は他の所得と損益通算はできません(一部例外として、配当所得と損益通算ができる場合があります)。
(2)土地・建物に関する譲渡損失も原則として対象外ですが、居住用財産などの譲渡損失については、一定の条件の下で認められる場合があります。
損益通算の順序
損益通算で差し引くことができる損失は、次の矢印の順序で差し引きます。
1.不動産所得や事業所得の赤字
経常所得(※)→ 譲渡所得 → 一時所得 → 山林所得 → 退職所得
2.山林所得の赤字
経常所得(※)→ 譲渡所得 → 一時所得 → 退職所得
3.譲渡所得の赤字
一時所得 → 経常所得(※)→ 山林所得 → 退職所得
(※)経常所得とは、事業所得や不動産所得、利子所得、配当所得、給与所得、雑所得をいいます。
まとめ
損益通算はそれぞれの所得の壁を越えて、上記4つの所得に関する損失をほかの所得の黒字と相殺することができる制度です。節税のために有効な手段なので、ぜひ覚えておきましょう。
出典(※)国税庁 No.2250 損益通算
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー