給与所得者の方へ 年末調整ではできない還付申告の準備をしましょう
配信日: 2020.12.18
何があるかというと、医療費控除、寄附金控除(ふるさと納税)、雑損控除の3種類です。これらの控除の申告は、これから準備をする必要があります。
この記事では、この3つの所得控除の概要について解説したいと思います。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。
現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
医療費控除
医療費控除は今年の医療費が一定額以上に達した場合、所得控除の対象となり、税の還付が受けられる制度です。医療費控除の金額の計算方法は次のとおりです。
- 1.今年の医療費の領収証を集め、健康保険組合から送られてきた医療費明細と照合する。
- 2.今年の医療費総額を出す。
生計を一にする家族の医療費はまとめて申告することができる。 - 3.健康保険の高額医療費や自分が加入している医療保険などから支払われた保険金の額を調べて、医療費総額から差し引く。
- 4.さらに10万円(所得金額が200万円未満の方は所得金額の5%)
を差し引いた残額(2-3-4)が、医療費控除の金額になる。
医療費控除の対象となるには、健康保険や医療保険で補てんされた金額に加えて10万円以上の医療費がかかったことが条件になります。かなりの金額ですから、このハードルをクリアできない方もいらっしゃると思います。
そういう方は、セルフメディケーション税制の適用を検討してみてはいかがでしょうか。
セルフメディケーション税制とは2017年から始まった税制で、適用を受けようとする年に、健康診断や予防接種など健康の保持増進および疾病の予防への取り組みを行っていることが前提です。その上で、「スイッチOTC医薬品」の購入費が所得控除の対象となります。
スイッチOTC医薬品とは、以前は医師によって処方される医薬品(医療用医薬品)だったものがドラッグストアで購入できるOTC医薬品に転用されたものです。対象薬品を購入した際のレシートには製品名の前にマーク(例えば「★」など)が付され、「★印はセルフメディケーション税制対象OTC医薬品」といった記載があります。
セルフメディケーション税制の適用を受けると、スイッチOTC医薬品の購入費から1万2000円を差し引いた金額が医療費控除額となります。
所得控除額が最高200万円の医療費控除と比べると、最高額が8万8000円と小ぶりの所得控除ですが、よく薬を買う方は購入時のレシートを確認されることをお勧めします。なお、医療費控除とセルフメディケーション税制は、どちらか一方しか申告できないのでご注意ください。
地方公共団体への寄附金控除制度、ふるさと納税
年末調整では申告できない所得控除の2番目は寄附金控除です。
寄附金控除の対象は、国、地方公共団体、学校法人、政治活動などへの寄附金ですが、2008年からは「ふるさと納税」が創設され、一躍脚光を浴びるようになりました。最近では寄付金額に対する返礼品の金額の割合が抑えられているため、一時ほどの過熱感はありませんが、着実に制度として根付いています。
ふるさと納税の仕組みは次のとおりです。
- 1.地方公共団体へ寄付金を納めた上で、希望するその地方の特産物などを指定する。
- 2.地方公共団体から特産物などが返礼品として贈られる(現在では寄付金額の30%程度の品物となっています)。
- 3.寄附金受領証明書をつけて還付申告で寄附金控除を申告すると、
「(ふるさと納税額-2000円)×所得税の税率」相当額の所得税が還付される。 - 4.さらに「(ふるさと納税額-2000円)×(100%-所得税の税率)」相当額が住民税から減額される
- 5.3と4での節税に加え、寄付した人は実質負担2000円で地方公共団体から返礼品が受け取れる。
(ふるさと納税には各人の所得や家族構成に応じて、上記ルールに基づいて還付される控除上限額が設定されています。控除上限額のシミュレーションは、ふるさと納税の関連サイトで行えるようになっています。記事の最後にふるさと納税サイト「ふるなび」のリンクを付けておいたので、お試しください)。
「実質負担2000円で地方公共団体から返礼品が受け取れる」と書きましたが、そのためには還付申告が必要です。これを忘れてしまうと「実質負担2000円」ではなくなってしまうので注意してください。
なお、還付申告をしなくとも税金の還付が行われる「ワンストップ特例」という制度もあります。
これは給与所得者の人が寄付をするたびに寄附金控除に係る申告特例申請書とマイナンバーカードなど本人確認書類の写しを寄付先の地方公共団体に郵送すると、確定申告を行わなくても「寄付金総額-2000円」が住民税から控除されるものです(年間の寄付先の地方公共団体が5つ以内の場合に適用できます)。
ただし、還付申告をするとワンストップ特例は無効になるので、医療費控除やその他の所得控除も申請したい人には確定申告による還付申告をお勧めします。
雑損控除
雑損控除は災害や盗難などで資産に損害を受けたときに申告するものです。雑損控除の対象となるのは次の2つのうち、いずれか多い方の金額です。
1.(差引損失額*1)-(総所得金額等)×10%
2.(差引損失額のうち災害関連支出の金額*2)-5万円
*1 差引損失額=損害金額+災害などに関連したやむを得ない支出の金額-保険金などにより補てんされる金額
*2 災害関連支出の金額とは、災害により滅失した住宅や家財などの取り壊し、または除去するために支出した金額など
上記の計算式から、総所得金額等の10%を超えるような損害でないと雑損控除の対象にならないことが分かりますが、台風や洪水により家屋が損壊したような場合には対象となる可能性があります。また、損失額が大きく、1回の還付申告で控除しきれないときは翌年以後3年間の繰り越しが認められています。
なお、その年の所得金額が合計1000万円以下の人が災害に遭った場合、雑損控除とは別に災害減免法による所得税の軽減免除もあるので、納税者はどちらか有利な方法を選ぶことができます。
まとめ
給与所得者の方でも、還付申告をすることで節税になる事例があることがお分かりいただけたでしょうか。
なお、還付申告は一般に確定申告といわれ、2月16日にならないと申告できないと思われていますが、年末調整を終えた給与所得者の方は翌年の1月1日から可能です。準備ができている方は早めに申告しましょう。
これ以外にも、年末調整に生命保険料控除が間に合わなかった場合には、還付申告を行うことで税の還付を受けることができます。還付申告の知識を身に付けて、一度行ってみることをお勧めします。
出典
国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
国税庁 No.1129 特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)【セルフメディケーション税制】
国税庁 No.1155 ふるさと納税(寄附金控除)
ふるなび 控除シミュレーションと計算方法
国税庁 No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)
国税庁 No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー