遺言書がなければ実現できない2つのケースとは
配信日: 2018.06.10 更新日: 2019.01.10
1つは、子どものいない夫婦が配偶者に全財産を遺したいケース。
もう1つは、長年、介護の世話をしてくれた息子の嫁に財産を遺すケースです。
Text:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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目次
ケース1 子どものいない夫婦が配偶者に全財産を遺したいケース
例えば、子どもがいない夫婦で夫がなくなった場合、妻にすべての財産がいくとは限りません。
両親が亡くなっていても、夫に兄弟がいると、たとえその兄弟が亡くなっていたとしても、その兄弟に子どもがいれば、その子どもにも相続権があります。このようなケースで妻に全財産を遺すには、遺言書が必要です。
誰が法定相続人になるのか?
遺言がない場合、法律で財産を相続する人の順位や相続割合が決まっています。
配偶者は常に法定相続人になります。子がいれば、配偶者と子どもが法定相続人になります。子どもがいない場合は、配偶者と直系尊属(被相続人の父母など)が法定相続人になります。
直系尊属も亡くなっていれば、配偶者と被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になります。
上記のケースでは、妻と義理の兄弟が法定相続人になり、この場合の法定相続分は、妻が4分の3で義理の兄弟が4分の1となります。
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義理の兄弟との話し合いが必要
義理の兄弟と遺産分割協議をしなければなりません。夫の財産の大半が自宅で預貯金が少ない場合、義理の兄弟は自宅を売却して、お金で財産を分配するように要求するかもしれません。
長年疎遠になっていた義理の兄弟とお金のことで話し合わなければならないのは煩わしいし、納得いかないでしょう。
義理の兄弟が亡くなっていても安心できない
義理の兄弟が亡くなっていても安心できません。その兄弟に子どもがいれば、子どもが相続権を引き継ぎます。これを代襲相続といいます。
甥や姪となると、人数も多くなる可能性がありますし、まったく会ったことがない甥や姪もいるでしょう。さらに話し合いが難しくなります。
なお、兄弟姉妹の代襲相続は一代限りですので、妻が亡くなる前に甥や姪が亡くなっている場合は、甥や姪の子どもに相続権が引き継がれることはありません。
妻に全財産がいくようにするには?
妻に全財産がいくようにするには、妻に全財産を相続させるという内容の遺言書を作成することが必要です。公正証書にしておきましょう。
「遺留分の侵害にならないの?」と思われた人もいると思います。遺留分は相続人の最低の取り分で遺言書でも奪うことができませんが、兄弟姉妹、甥、姪には遺留分がありません。
したがって、妻に全財産を相続させるという内容の遺言書を作成しておけば、義理の兄弟には相続権がなくなり、全財産を妻に遺すことができます。
ケース2 長年、介護の世話をしてくれた息子の嫁に財産を遺すには
長年、介護の世話をしてくれた息子の嫁に感謝の気持ちとして、自分が亡くなった時に、財産を嫁に遺してあげたいと思っても、息子の嫁には相続権がありません。
「寄与分はどうなの?」と思われた人がいるかもしれません。寄与分は、相続財産の維持または増加に貢献した相続人に認められる特別の取り分です。寄与分が認められるのは相続人ですので、息子の嫁に寄与分が認められることはありません。
では、相続人である息子が介護した場合はどうでしょうか。寄与分が認められるには「特別の寄与」とこれによって「相続財産の維持または増加」したことが必要です。
一般に親子にはお互いに扶養義務がありますから、介護の面倒を見ていたというだけでは「特別の寄与」が認められることは期待できないでしょう。
したがって、いずれの場合も、介護の感謝の気持ちを考慮した遺言書を作成しておくことが必要です。
Text:新美 昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。