更新日: 2020.09.16 贈与

相続税対策の基本は「生前贈与」の実行から

相続税対策の基本は「生前贈与」の実行から
2015年から相続税の基礎控除額が大幅に縮小され、多くの人が相続税の納税が発生するようになりました。自分の財産はなるべく最後まで自分で管理したい、と考えていると、亡くなった後に子どもや孫たち相続人が、多くの相続税を納める結果になります。
 
そのための対策として、その前に相続財産を減らしておくことが重要です。その中でも「生前贈与」は、すぐに実行できる、相続税を減らせる対策のひとつといえそうです。
 
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

財産の世代間移転を促進

2019年から始まる相続税制の改正で、相続面で配偶者はかなり優遇され「配偶者居住権」の確定など、税制上は非常に有利になりました。
 
だからといって、相続財産を控除額が多い配偶者が主に相続すると、その後の子や孫が相続時に多額の相続税を支払うことになってしまいます。
 
そのため、相続税対策の王道ともいえる方法は、地味ですが生前にできるだけ贈与をして、財産の世代間の移転を実現しておくことです。一度に進める必要はありませんので、何度かに分けて進めることも可能です。
 
相続財産の多くは、土地・住宅などの不動産と、各種預金・有価証券などの金融資産で、これらを合わせると、相続財産の約9割になります。こうした財産を生前に子や孫に贈与し、相続時の財産額を減らすことにより、相続税の納付額を大きく節約できます。
 
税制面でも、こうした若い世代への資産の移転については、いくつかの優遇制度もあり、移転を後押ししています。
 
贈与は、財産を贈与する側の人(贈与者)と財産を受け取る側の人(受贈者)とが、贈与に関する合意をして契約が成立します。贈与をする方法としては、主に「暦年贈与」と「相続時精算課税」があります。
 

「暦年贈与」は毎年コツコツと贈る方式

暦年贈与は、その年に1回だけ贈与するもので、贈与といえば通常はこれを指します。
 
1人当たり年間110万円の非課税限度額が認められています。何人かに贈与することもできます。毎年110万円以内を贈与していくのであれば、贈与税は一切かからずに贈与ができる計算です。
 
ただし、土地などを贈与しようと思うと、一度では僅かな部分しか贈与できないため、10年以上かかることもあります。110万円の非課税枠に眼が行きがちですが、多少の贈与税を支払う贈与であっても、納税の証明も得られるため、実際の相続が発生時点で問題が起こりません。
 
納税の不要な110万円以下の贈与でも、きちんと贈与契約書を作成しておくと、相続時点で税務署からの「お尋ね」にも対応できます。 贈与は子や孫などの直系の親族だけでなく、他人に対しても行うことも可能です。
 
相続に関しては、原則として親族が相続人となりますが、贈与は誰でも可能なため、世話になった人に行うこともできます。また、贈与額が多くなった際の贈与税の非課税枠は、20歳以上の子、孫などの親族に対しては、他の人に対するより優遇される仕組みもあります。
 
暦年贈与は、贈与時点から3年が経過していれば、相続時にも相続税は関係ありません。ただし、3年未満の場合は「持ち戻し」といって、相続財産として相続税を支払う必要があります。すでに支払った贈与税については、相続税と相殺される仕組みです。
 

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「相続時精算課税」は一度にできるが相続税も

一度に多くの金額を受贈することができますが、相続発生時に相続税を負担する必要があります。この制度の提要が受けられるのは、贈与者が60歳以上で、受贈者は20歳以上の子と孫に限定されます。年間の贈与額に決まりはありませんが、累計2500万円の限度額があります。
 
そのため、この制度の形態は贈与ですが、相続税の変形といえる「生前相続」と考えたほうがよさそうです。
 
相続税は支払うことにはなりますが、贈与時点の財産価格となるため、将来値上がりが期待できる財産に適用すると有利な面がある、贈与者側から受贈者側へ決まった額を移転でき相続への意思表示ができる、の2点がメリットです。
 

住宅資金や教育資金向け贈与への非課税

高齢世代から現役世代への所得移転を目的にいくつかの優遇措置がありますが、代表例が、住宅取得資金の非課税と教育資金一括贈与時の非課税です。
 
どちらも「非課税枠」を設定することで、高齢世代に停滞しがちな資金を、スムーズに現役世代へ移転させようとするものです。この二つの制度を利用して贈与した金額は、相続税の対象ではないため、相続税対策としては、非常に効果的です。
 
住宅取得と子への教育資金は、現役世代には不可欠の出費となっており、この制度を設けることで、効果的な移転ができます。
 
(1)住宅取得資金が非課税となる制度
住宅取得に際しての非課税制度は、20歳以上の子や孫が対象で、非課税限度枠は最大1200万円です。建築する住宅の床面積などに制約はありますが、相続財産を減らすことが可能になります。
 
子や孫であれば、何人でも贈与することができます。贈与税のかからない特例の適用を受けるには、贈与を受けた翌年に確定申告をする必要があります。
 
(2)教育資金一括贈与が非課税となる制度
大学入学金など教育資金は、現役世代にとって大きな負担です。この制度は30歳未満の子や孫が対象で、1人につき1500万円まで非課税となります。
 
これを実行するには、金融機関に非課税制度専用の口座を、子や孫の名義で開設する必要があります。贈与する資金を開設した口座に入金し、大学入学金などの教育資金を、その口座から必要に応じて引き出すもので、教育資金以外への充当はできません。
 
30歳時点で専用口座に残金があると、それに贈与税がかかります。この制度は19年3月までの特例措置ですが、恒久化の方向で検討されています。
 
この二つの制度を1人に対して利用したとしても、2700万円が非課税で贈与できます。1人ではなく複数の子や孫に贈ったとすれば、5000万円以上の金額を非課税で贈与できるため、多くの財産を若い世代へ移転できます。
 
通常の相続税の課税限度額が引き下げられるなか、こうした制度は活用したいものです。
 
Text:黒木 達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト
 

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