遺産相続を巡る争い…2つのもめる原因とは
配信日: 2021.08.12
3年後に施行されますが、相続争いを早期に解決する必要に迫られそうです。
通常は短期間に合意できるが
相続が起こると、故人の出生時の戸籍までさかのぼって相続人を確定し、その相続人同士で話し合い、相続手続きが進められます。
例えば、故人に養子縁組をした子どもがいたり、勘当され行方不明になっていた子どもが現れたりすると、故人と一緒に生活してきた子どもにとっては、気持ちの良いものではありません。持ち分を減らしたいと考えても、子どもである限り、同等の権利があります。
このときに、いろいろな意見がでて協議がまとまらないと、合意に時間がかかることがあります。話がこじれることで、長期間合意できないケースも出てきます。
しかし今回の民法改正で、協議期間は10年が限度で、もし合意しない場合は「法定相続の原則」に沿って相続することに決まりました(2024年実施)。
さまざまな条件を考慮して遺産相続を行うにしても、今後は10年以内の合意が不可欠になりました。相続人同士の間で、諸事情を考慮し差をつける場合は、10年以内に全員で合意する必要があります。
一般に不動産をどう分割するかに時間がかかるのですが、不動産以外でも、もめごとに発展するケースはあります。
もめる原因1 「特別受益」の算定
「特別受益」とは、相続人の1人が、他の相続人に比べ財産面で特に恩恵を受けており、その分を相続財産の一部として算入する方法です。
例えば、長男だけが、私立大学の医学部へ進学し、親から8000万円を超える学費の援助を受けました。他の兄弟は私立大学の文系学部だったために1000万円程度しか援助を受けていないため、差額の7000万円を、長男の相続財産に加えて遺産分割をする方法です。
このほかにも、特定の人だけ、住宅取得で援助を受けた、結婚資金で特別な援助を受けた、といったもので、明らかに特定の人が厚遇を受けた際の金額が該当します。生前贈与を受けた場合も特別自益に該当しますが、正月の「お年玉」や通常の小遣いなどは該当しません。
特別受益を受けた人は、その受益額を低く算定しがちですが、他の人は存在したと算定することを求めてきます。特に感情論が入ってくると、合意が難しくなりがちです。
実際は援助した親が亡くなっているため、その額の算定が困難なケースも多々あります。特に子どもたち同士の仲が悪いと、特別受益を受けた人が、他の兄弟が受けていたと思われる受益の内容を持ち出し、収拾がつかなくなる可能性もあります。
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もめる原因2 「寄与分」の算定
「寄与分」とは、故人の生前に多大なサポートで貢献をした人に対して、それに報いるため、相続財産の一部を分配するものです。例をあげれば、故人に対する介護になります。
例えば、故人の娘や同居していた息子の妻などが、病気がちだった故人の介護を献身的に行った場合に、その対価として相続時に支払われるものが「寄与分」です。家事の手伝いで貢献した場合も、寄与分に該当します。
しかし問題は介護などに貢献した行動を、どのように金銭で表現するかです。
介護をした本人やその配偶者は、介護の苦労に対し少しでも多くを認めてもらいたいと希望する一方で、介護に携わっていなかった人からみると、ある程度面倒をみるのは当然だと思われたり、金額的にも多くなることには反対したりすることがあります。
金額として具体的に数字化しにくいため、妥協点を見つけるのに苦労する可能性があります。意見がまとまらないときは、介護した年数や介護ヘルパーを依頼した際にかかる経費などを基準に、寄与分を算定します。
実際の裁判所の判例では、軽度な介護状態のときはカウントしないことがあり、寄与分を期待する家族にとっては、評価額が意外と低くなってしまうこともあります。
国の狙いはズバリ、土地登記の推進
相続の協議期間が、10年と区切られます。国から見て最大の狙いは、相続争いで決着がつかないまま「所有者不明の土地」の増加を防ぐことです。
これまでは、協議がまとまらない場合はそのまま放置され、問題解決の期限はありませんでした。もし相続人が決まらないと、対象の土地がそのまま10年以上放置され、相続すべき人が亡くなる事態さえ起こり、最終的には、所有者不明の土地の増加となっていたのです。
土地の登記がされなければ、固定資産税の徴収ができないだけでなく、手のつけられない所有者不明の土地が増えることになります。10年という期限を設け、個人レベルで解決するよう促します。それでも決着しないときは、法定相続にのっとり相続人を確定し、土地の登記も実現します。
国の最大の狙いは、相続登記を義務化することで、所有者不明の土地を少なくすることができるのです。そのため地方にある親の住んでいる住居も、だれが相続するかを事前に決めておく必要に迫られています。そのまま放置できなくなりました。
もし法定相続どおりの相続方法を望まない場合は、10年以内に相続人同士が合意し、相続業務を確定しなければなりません。10年後の法定相続で決着となると、特別受益や寄与分が考慮されないため、不利になる人が出てきます。
特別自益などを認めようとはせずに、法定相続を期待する人が、合意を延ばそうとするかもしれません。
特別受益や寄与分の算定は、家庭裁判所の調停を利用することも1つの方法です。これを利用すれば、対立する意見を聴き取ったうえで、第三者としての公平な判断基準が示され、10年以内に相続手続きが実行される確率が高まると思われます。
この制度は、裁判所という第三者が入ることで、公平性はかなり担保されますが、当事者間の感情的なしこりは残るかもしれません。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。