家族に内緒で「暗号資産」と「ネット証券」の口座を持っています。私が亡くなった時に備え、どのような準備が必要ですか?
田久保誠行政書士事務所代表
CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、特定行政書士、認定経営革新等支援機関、宅地建物取引士、2級知的財産管理技能士、著作権相談員
行政書士生活相談センター等の相談員として、相続などの相談業務や会社設立、許認可・補助金申請業務を中心に活動している。「クライアントと同じ目線で一歩先を行く提案」をモットーにしている。
デジタル遺産とは
デジタル遺産とは、故人がパソコンやスマホの中でデジタル形式によって保管していた財産のことです。具体例として、ネット銀行やネット証券の口座、FX、暗号資産等の金融資産があります。それ以外にも電子マネーのチャージ残高や店舗や飛行機の各種ポイント、マイレージ等もその範囲に含まれます。
ちなみに写真や動画、SNSのアカウント、住所録、ブログ等は「デジタル遺品」と呼ばれます。
デジタル遺産の特徴は
デジタル遺産の特徴は、もし本人がその存在を家族に言わなければ、誰も気付かないということです。仮にネット証券やネット銀行の口座を保有していること等を知っていたとしても、インターネット上のID、パスワードを遺族が知らなければアクセスできませんし、もし、その認証に顔認証や指紋認証等があればさらにアクセスが困難となります。
また、経済的な特徴として最近では本人が音楽や動画等のサブスクリプション契約していた場合には、本人が亡くなったからといって自動的に解約されるわけではありませんので、亡くなった後でも継続的に課金されるといったことが挙げられます。
さらに、口座の存在を誰も知らなくても、その保有額が多ければ相続税の対象となります。また、遺産分割後に遺産の存在を知れば再度遺産分割になりますし、分割後にFX等で負債があっても放棄できないなどの特徴もあります。
仮にIDパスワード等が分かっていて相続ができたとしても、その解約や名義変更もネット上で行わなければならない場合が多く、他の相続手続きとは別の作業が必要になります。
デジタル遺産で遺族が困らないためには
上記のように、まずはどのような遺産があるかを遺族に伝えておく、そしてそのIDパスワードの解除方法を教えておくことです。
もちろん、生前からそれをしてしまうと、セキュリティの問題や勝手に家族が見たり、資金等を移管する等のトラブルに発展したりする可能性が大きいです。よって、IDパスワード等を記載した紙を、亡くなった後分かりやすいところに置いておくのがよいでしょう。
特に遺産になりそうなもの(金融機関の口座等)や継続的に費用のかかるもの(サブスクリプション等)に関しては特に重要です。
ただし、遺言書、特に公正証書遺言に書いてしまうと、パスワードの変更や新たな契約を行った場合の書き換えに手間がかかるのでお勧めしません。
遺族はどのようことに気を付ければいいの?
遺族が行ってはいけないこととしては、スマートフォンやパソコンのパスワードをむやみに入力しないことです。セキュリティ対策上、一定回数入力が間違っていれば自動的にロックがかかる場合や最悪初期化されることも考えられます。
また、仮にIDパスワード等を知っていても遺産分割協議前に一人で開けてしまうと、その時点では他の相続人との共有財産になっていますのでトラブルになりかねません。よって、相続人全員がいる時や全員の承認を得てから開くのが無難です。
また、サブスクリプションの場合は、カードの明細や銀行引き落としの可能性が大きいので、明細や通帳を確認すると本人が契約していたものが分かります。ただし、明細がWebでしか見られない場合もあるので注意が必要です。
これからの終活では一番重要な活動になる
これだけデジタル化が進んだ社会で、完全にアナログだけの遺産を持っておくことは非常にまれなケースになってきます。最悪の場合、相続税がかかってもその遺産を使えないということになりかねません。
最終的には、紙でIDパスワード等を残すというアナログなやり方が今のところはベターですので、今できることからやっておくことをお勧めします。
執筆者:田久保誠
田久保誠行政書士事務所代表