親の葬儀費用で「300万円」の請求が! 「遺産」から「全額」支払うことはできるのでしょうか?
本記事では、「葬儀費用は誰が支払うのか?」「葬儀費用を遺産から全額支払うことはできるのか?」について解説します。終活をされる方だけでなく、そのご家族の方にもご認識いただきたい内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー
私がFP相談を行うとき、一番優先していることは「あなたが前向きになれるかどうか」です。セミナーを行うときに、大事にしていることは「楽しいかどうか」です。
ファイナンシャル・プランニングは、数字遊びであってはなりません。そこに「幸せ」や「前向きな気持ち」があって初めて価値があるものです。私は、そういった気持ちを何よりも大切に思っています。
葬儀費用は誰が支払うのか?
株式会社鎌倉新書が運営する日本最大級の葬儀相談依頼サイト「いい葬儀」が「第6回お葬式に関する全国調査(2024年)」の調査結果を発表しています。これによると、葬儀費用の平均価格は118万5000円であり、内訳は以下のようになっています。
・基本料金(斎場利用料、火葬場利用料、祭壇、棺、遺影、搬送費など、葬儀を行うための一式):75万7000円
・飲食費(通夜ぶるまい、告別料理などの飲食):20万7000円
・返礼品費(香典に対するお礼の品物):22万円
この葬儀費用について、「葬儀費用は誰が支払うのか?」についての明確な答えはなく、裁判例でも以下のように見解が分かれています。
(1)相続人または相続財産が負担するべきという見解
(2)喪主が負担するべきという見解
葬儀は故人(被相続人)のために行うものであるため、(1)が妥当なのではないかと思われるかもしれませんが、実務的には(2)が有力となっているようです。
その理由は、葬儀を行うかどうか、葬儀を行う場合はどの程度の規模の葬儀を行うかについて、喪主が判断することになるからということです。
(1)の立場をとりたいのであれば、生前に、被相続人と葬儀会社との間で葬儀に関する契約を結んだり、相続人や関係者との間で葬儀費用の負担について話し合いをしたりしておく必要がありそうです。
葬儀費用を遺産から全額支払うことができるのか?
「葬儀費用を遺産から全額支払うことができるのか?」については、前章の「葬儀費用は誰が支払うのか?」に対する見解により、以下のように回答が異なります。
(1)「相続人または相続財産が負担するべきという見解」に立てば、葬儀費用を遺産から全額支払うことは可能
(2)「喪主が負担するべきという見解」に立てば、葬儀費用を遺産から全額支払うことは困難
(1)と(2)の違いは、つまるところ、他の相続人が費用の負担について納得するかどうかの違いといえます。言い換えれば、他の相続人が「葬儀費用を遺産から全額支払ってもよい」というかどうかの問題です。法律に規定があるわけではありません。
本記事の例で争点となるのは、「葬儀費用として300万円の請求が来た」という点でしょう。「300万円」という金額は、前章で紹介した葬儀費用の平均価格118万5000円と比べると、およそ2.53倍です。この費用負担について、他の相続人がどう判断するかが鍵となりそうです。
他の相続人が「葬儀費用全額(300万円)を遺産から支払ってもよい」といえば、それで問題はないでしょう。しかし「ダメだ」といわれた場合、全額を遺産から支払うことは難しくなります。
先述のとおり、裁判において、葬儀費用は喪主の負担とする見解が有力です。また、遺産から支払うことを認めた判例があったとしても、それは「常識的な範囲の葬儀費用について」というものです。
葬儀費用300万円が「常識的な範囲」として認められるどうかは、正直、分かりません。したがって、今回の例においては、葬儀費用を遺産から全額支払うことは難しいと考えておいたほうがよいでしょう。
まとめ
本記事では、「葬儀費用は誰が支払うのか?」「葬儀費用を遺産から全額支払うことはできるのか?」について解説しました。まとめると、以下のとおりです。
・葬儀費用は「相続人または相続財産」または「喪主」が支払う
・相続人の理解があれば、葬儀費用を遺産から全額支払える可能性がある
相続税の計算上、葬儀費用は遺産総額から控除することができます。このため、葬儀費用は遺産から支払うのが当然のように思われるかもしれません。しかし、葬儀費用は相続発生後に発生する費用のため、「遺産(相続財産)」とはならず遺産分割の対象にもなりません。
したがって、当然に遺産から葬儀費用を支払えるものではなく、相続人間の理解が必要と考えられます。葬儀は故人のために行うものであることを思うと、費用負担を巡って遺族が争うことは避けたいものです。
本記事がその一助になれば幸いです。
出典
いい葬儀 【第6回】お葬式に関する全国調査(2024年)アフターコロナで葬儀の規模は拡大、関東地方の冬季に火葬待ちの傾向あり
執筆者:中村将士
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー