夫が事故で亡くなり、私は妊娠7ヶ月、義父母は健在です。夫の遺産「1500万円」はどのように分割したらいいでしょうか?
例えば、亡くなられた方に配偶者と本人の両親がいる場合、胎児が生まれる前の相続人は配偶者と本人の両親ですが、胎児が生まれると配偶者とその子になります。本記事では、相続人に胎児がいる場合の相続について解説します。
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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相続人の範囲と順位、相続分
民法では、亡くなった方(被相続人)の遺言による相続分の指定がない場合に備えて、相続人の順位や相続分を定めています。被相続人に配偶者がいる場合は、配偶者は常に相続人となります(民法890条)。
第一順位は子どもであり、次に直系尊属(父母・祖父母など)、その次に兄弟姉妹となります(民法887条1項、889条1項1号、2号)。
配偶者と子どもが相続人であるときは、それぞれ2分の1が相続分となります(民法900条1号)。配偶者と直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は3分の2、直系尊属の相続分は3分の1になります(民法900条2号)。
配偶者と兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は4分の3、兄弟姉妹の相続分は4分の1になります(民法900条3号)。
胎児の相続権
法律上、権利義務の主体となることができる資格を「権利能力」といいます。相続人は、権利能力を有することが原則です。一方、人は出生により権利能力を有することになる(民法3条1項)ので、被相続人の死亡時に胎児である者は相続人になることができなそうです。
しかし、生まれるタイミングの違いで相続権の有無が異なるのは不公平であるので、胎児は相続については、すでに生まれたものと見なされ、相続権が認められています(民法886条1項)。
ただし、胎児が生きて生まれてこなかった場合(死産の場合)には、胎児には相続権が認められません(民法886条2項)。
したがって、胎児が生まれてからでないと相続人の確定ができませんので、遺産分割をする際は、胎児が生まれてから手続きを行います。なお、民法では、出生は「身体が母体から全部露出したとき」とする説が通説です。
胎児がいる場合の相続税申告
相続税の申告期限内に、胎児が出生しているかどうかで取り扱いが異なります。
申告期限内に胎児が出生した場合、相続税の申告・納付は、相続の開始を知った翌日から10ヶ月以内(胎児が出生した場合の胎児の申告期限は、法定代理人が出生を知った日の翌日から10ヶ月以内)に相続税の申告を行います(相続税法27条1項)。
なお、被相続人の配偶者と未成年の子どもがいる場合、その親と子どもは利益相反になりますので、親権者とは別に家庭裁判所の許可を得て、特別代理人の選任が必要になります。
一方、申告期限内に胎児が出生していない場合においても、胎児はいないものとして相続税を本来の申告期限までに申告します。申告期限後に出生した場合は、法定代理人(子どもの母親などの親権者)が、胎児が生まれたことを知った翌日から10ヶ月以内に申告します。
胎児が生まれたことにより、納めた税金が過大になった場合は、胎児が生まれたことを知った日の翌日から4ヶ月以内に更生の請求をして税金を還付してもらえます(相続税法32条)。
また、胎児が出生することにより法定相続人が増えると、相続税の基礎控除や死亡保険金、死亡退職金の非課税枠が増加します。これにより、仮に胎児が出生したものとしたら、相続税の申告義務がなくなるときは、胎児以外の相続人は胎児が生まれてから2ヶ月の範囲内で申告期限の延長が可能です。
例えば、法定相続人が妻と子ども1人から、胎児1人が増えた場合、相続税の非課税枠(基礎控除額)は4200万円から4800万円に、死亡保険金、死亡退職金の非課税枠(基礎控除額)はそれぞれ1000万円から1500万円に増えます。
つまり、胎児が生まれたことで、相続税の非課税枠は1100万円増えますので、相続税の申告義務がなくなるケースがでてきます。
まとめ
胎児が生まれた場合、夫の遺産1500万円は、妻と子どもが相続します。遺言者がない場合、妻と子どもがそれぞれ500万円ずつ相続することになります。胎児が死産の場合、妻と義父母が相続します。妻は1000万円、義父母500万円を相続します。
胎児が、生まれるか生まれないかで、相続人や相続分に大きな違いがでてきます。また、相続税が発生する場合、申告の手続きは複雑ですので税理士などの遺産分割や相続税の専門家に相談しましょう。
出典
デジタル庁 e-GOV 法令検索 民法
デジタル庁 e-GOV 法令検索 相続税法
執筆者 : 新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。