父が亡くなりました。葬儀費用としてまとまった資金が必要ですが、遺産分割が終わるまで父の預貯金を引き出すことはできませんか?
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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亡くなった人の預貯金はどうなる?
預貯金の口座名義人が亡くなると、死亡が確認された時点で、預貯金債権等は遺産分割の対象となり(最高裁平成28年12月19日大法廷決定)、遺産分割が終了するまで原則払戻しができなくなります。
しかし、相続人に当面の生活費や葬儀費用、医療費などが必要で、まとまったお金をすぐに用意しなければならない場合があります。そこでこのような資金需要に対応しうる制度として「相続預貯金の払戻し制度」ができます。払戻しには、次の2つの方法があります。
1. 預貯金債権の一定割合(金額による上限あり)については、家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口で払戻しを受ける
2. 預貯金債権にかぎり,家庭裁判所の仮分割の仮処分により払戻しを受ける
なお、払戻しを受けると相続放棄できなくなりますので注意しましょう。
家庭裁判所の判断を経ずに払戻しができる方法
各相続人は相続された預貯金について、一定の範囲内であれば家庭裁判所を通さずに金融機関から直接払戻しを受けることができます(口座ごとに上限あり、民法909条の2)。
一定の金額とは、相続開始時の預貯金債権額の3分の1に各共同相続人の法定相続分を乗じた金額とされ、150万円が限度です。この限度額は同じ金融機関から払戻しを受ける金額なので、別の金融機関の預金債権に対しては別途請求が可能です。
例えば、相続人が妻と子ども3人、A銀行にある預貯金債権が1800万円の場合、A銀行は子ども1人に対して、1800万円×1/3×1/6=100万円(≦150万円)を限度に払戻しします。
なお、遺産分割前に払戻しを受けた預貯金債権について、払戻しを受けた共同相続人の方が遺産の一部を分割により取得したものとみなされます。
家庭裁判所の仮分割の仮処分
上記の遺産分割前であっても、一定額までであれば相続人単独での預貯金の払戻しが可能ですが、この制度には150万円という上限があります。それ以上の金額が必要な場合には、家庭裁判所の審判を経て仮分割の仮処分を行う制度が設けられています(家事事件手続法200条3項)。
家庭裁判所で、遺産分割の審判や調停の係属中に共同相続人の1人から申立てがあった場合、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支払い、その他の事情により、仮払いの必要性があると認められると裁判所が判断したときは、他の共同相続人の利益を害しないかぎり、裁判所は遺産に属する預貯金債権の全部または一部を申立人に仮に取得させることができます。
制度利用の際に必要な書類
遺産分割前の相続預金の払戻し制度を利用するためには、本人確認書類に加え、以下の書類が必要です。
・家庭裁判所の審判書謄本(家庭裁判所の仮分割の仮処分の場合)
・亡くなられた方の通帳・証書・キャッシュカードなど、預金の払戻しを希望される方の印鑑証明書
・被相続人(亡くなられた方)の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)
・相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
など
金融機関によって、必要となる書類が異なることがありますので、詳細は取引している金融機関にお問い合わせください。
出典
法務省 相続された預貯金債権の払戻しを認める制度について
一般社団法人全国銀行協会 ご存知ですか? 遺産分割前の相続預金の払戻し制度
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー