父が亡くなりました。葬儀費用や税金の支払いがあるので“口座が凍結”される前に少しずつお金を引き出しておいても問題ないでしょうか?
口座が凍結される前に、葬儀費用や亡くなった方の税金、公共料金などの支払いに充てるため、お金を引き出したいと考えるかもしれません。このようなことは可能なのか、FPである筆者が解説します。
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士、円満相続遺言支援士(R)
外資系IT企業を経て、FPとして「PCとFPオフィス植田」を起業。独立系のFPとして常に相談者の利益と希望を最優先に考え、ライフプランをご提案します。
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口座凍結前ならATMで引き出し可能
人が亡くなると、銀行口座は凍結されます。これは、相続人同士のトラブルを防ぎ、遺産を適切に分配するための措置です。金融機関は、相続人や遺言執行者からの申し出により口座凍結を行います。そのため、口座凍結される前であれば、キャッシュカードと暗証番号があればお金を引き出すことが可能です。
ATMで引き出し可能な上限額は金融機関によって異なりますが、50万円までの金融機関が多いようです。上限額以上引き出したい場合は、複数日に分けて引き出すことになります。
しかし、引き出したお金は相続財産ですので、相続人が複数の場合は他の相続人とのトラブルを避けるため、事前に相談し、領収証などを保管しておくことが重要です。引き出した金額は、葬儀費用などを合わせて遺産分割協議で清算します。
また、預金を引き出すことで相続放棄ができなくなる可能性にも注意が必要です。これは、預金の引き出しが「単純承認」とみなされ、被相続人の負債も引き継ぐことになるためです(※1)。
遺言書がある場合
遺言書がある場合は、原則として記載内容に従って遺産分割を行う必要があります。特に、公正証書遺言では遺言執行者が明記されていますので、遺言執行者は預貯金の口座凍結を速やかに行い、後でもめないようにする必要があります。
自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所で検認という作業を行い遺言書の内容を確認します。検認には数週間必要なため、その間に預金が引き出される恐れがあります。
遺産分割でもめそうな場合は、早めに口座凍結手続きをしたほうがよいでしょう。なお、法務局の保管制度を利用している場合は検認が不要です(※2)。
仮払制度の利用
口座凍結になり、葬儀費用など一時的に立て替えることが難しい場合は、仮払制度を利用することができます(※3)。
仮払制度は、遺産分割が完了する前でも、一定の限度額までなら相続人が預金を引き出せる仕組みです。この制度では、金融機関ごとに 最大150万円 までの引き出しが認められています。
ただし、実際に引き出せる金額は 「死亡時の預貯金残高 × 法定相続分 × 3分の1」 という計算式で決まります。例えば、口座に1500万円の預金があり、法定相続分が2分の1の場合、計算上は250万円引き出せますが、上限が150万円なので、実際に引き出せるのは150万円までです。
仮払いを利用するには、以下の書類が必要になります。
・相続人の 身分証明書
・相続人の 印鑑証明書
・被相続人の 戸籍謄本(出生から死亡までのもの)
・申請書類(金融機関ごとに異なる)
ただし、仮払制度を利用すると 相続放棄ができなくなる可能性があります。
これは、ATMで預金を引き出すのと同様、仮払いを受け取ることで「単純承認」とみなされ、被相続人の負債も引き継ぐことになるためです。相続放棄を検討している場合は、必ず事前に法律の専門家へ相談するようにしましょう。
まとめ
実際の葬儀費用は簡素な家族葬でも100万円前後必要になります。さらに、未払いの医療費やお布施などを相続人が一時的に立て替えをするには、大きな負担となる場合があります。
しかし、口座凍結前後のお金の引き出しは慎重に行い、相続人同士のトラブルを避けるためにも、事前の相談や領収書等の保管を忘れずにしましょう。また、判断に迷う場合は法律の専門家へ相談することをお勧めします。
出典
(※1)最高裁判所 相続の放棄の申述
(※2)法務省 自筆証書遺言書保管制度
(※3)法務省 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)
執筆者 : 植田周司
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士、円満相続遺言支援士(R)