遠方の実家を相続しました。管理が難しい状態です。業者に管理を頼むとしたら、費用はどれくらいかかるのでしょうか?
特に、親が一人暮らし、もしくはすでに家を出て老人ホームなどで暮らしていて亡くなった場合、相続した子が、当面は実家の管理をしなければならないケースは少なくありません。管理を誰かに任せたいが、その費用も気になるところです。
本記事では、もし空き家となった実家を相続した場合の対策と、もし業者に依頼した場合の費用の目安についてご紹介します。
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。
長期に渡り離婚問題に苦しんだ経験から、財産に関する問題は、感情に惑わされず冷静な判断が必要なことを実感。
人生の転機にある方へのサービス開発、提供を行うため、Z FinancialandAssociatesを設立。
目次
空き家を放置できない理由
空き家となる実家を引き継いだ場合、まず困るのは「その空き家をどう管理するか」という点です。同じ財産でも現金と違って、不動産はその価値を維持するために継続的な管理が必要です。
もし、管理できずに空き家を放置すると、次のような問題が発生する可能性があります。
1. 壁や柱などが痛んで倒壊する恐れ
2. 害虫の発生や、ねずみなど動物の住みかとなることで衛生状態が悪化
3. 不法侵入による家屋の損壊やごみの不法投棄
これらの問題を放置すると不動産価値の下落につながり、売却や賃貸ができなくなってしまう恐れがあります。さらに、空き家法上の「特定空家」に認定されると、固定資産税の軽減措置が受けられなくなり、税負担が増加する恐れも出てきます。
また、問題はこれだけに収まりません。下記のような、近隣や周辺への悪影響を及ぼします。
1. 空き家が犯罪の温床となり、周辺地域の治安悪化につながる恐れ
2. 庭の樹木が伸びて枝がはみ出すことにより、周囲の建物を傷つけたり歩行者の通行を妨げたりする恐れ
3. 外壁や屋根瓦が落下し、通行人をけがさせる恐れ
こうした問題が起こった場合、所有者が損害賠償義務を負う可能性があります。
空き家を相続した場合は、自分の不動産価値を守るためにも、また他人の環境や安全を守るためにも、管理を続けることはとても大切です。
ただし、どんなに管理を続けることが大切かは分かっていても、遠方に住んでいる人が定期的に通って管理することは現実的ではありません。そこで、空き家を今後も維持するのか、それとも処分するのかを、しっかり検討する必要があります。
いずれ売却するにしても、一定期間は管理が必要
相続した空き家をどうするか。選択肢としては、「賃貸に出す」「売却する」「その地域で活用してもらう」などが考えられます。
しかし、これらの手段は、不動産仲介会社等に依頼して借り手や買い手を探したり、見つかってもリフォームが必要になったり、測量をしたり、売買契約を締結したりなど、さまざまな作業が必要となり、時間がかかります。
さらに、遺産分割協議が相続人の間で難航して、空き家自体の処分を決められない、思い入れのある実家を処分することを簡単に決められない、などの個人的な事情から、長期間処分ができない場合もあります。
そのような場合は、第三者に管理を委託することを検討します。
では費用はいくらくらいかかるのでしょうか?
これは、何をどの程度まで依頼するのかによって変わってきます。
次に、どんなサービスがあるのか、またどのような作業を依頼できるのかを見てみましょう。
空き家の管理サービスは基本とオプションの組み合わせによりさまざま
空き家の管理サービスには、不動産業者やNPO法人など、さまざまな業者がサービスを提供しています。
料金は、管理のサイクル(月1ごと、訪問回数ごとなど)や対象の家(一軒家かマンションか)、敷地面積などによって違いはありますが、基本料金はおおむね5000~1万5000円といったところでしょう。
ただし、基本サービスのなかに含まれていないサービスをオプションの付加や、修繕や伐採などの作業が発生した場合は、別途料金が追加される仕組みとなっている場合があります。
基本サービスのなかにどのような作業が含まれるのか、業者によって違いがありますが、おおむね以下のサービスが含まれていることが多いです。
1. 室内の換気や通水
2. 外観や内観、庭の草木の目視確認
3. 郵便物の回収
4. 簡単な清掃
5. 作業内容の報告、写真撮影
どの業者を選ぶかは、以下のポイントを押さえて決めるのがよいでしょう。
●自分が求めるサービスに、その会社の強み(例えば、清掃を専門にしている会社なら、室内の清掃を念入りにしてくれる、警備会社なら強力な監視体制など)が合致しているか
●料金は妥当か
●基本サービスに自分が求めるサービス内容が含まれているのか、それともオプションで付加する必要があるのか
●家屋の修繕が必要になった場合、ワンストップで対応してもらえるのか、それとも別途業者の手配が必要になるのか
業者に依頼する前に、まずは自分で依頼事項をチェック
空き家の管理サービスを利用するにあたり、何を依頼するのかを整理しておくことが大事です。
では、どのように整理しておくのがよいでしょうか? そのためのツールとして、国土交通省で公表されている、「空き家管理チェックリスト」を使うのがよいでしょう(※1)。
内容を一部抜粋すると、このような内容になっています。
[外観]
建物全体が傾いていませんか。屋根が全体的に変形していませんか。
→ (管理方法)柱、はりの補修や防腐処理などを依頼しましょう。
[屋内など]
柱、はりなどが破損、腐朽していませんか。不法侵入につながるような窓の破損はありませんか。
→(管理方法)はがれた部材などは撤去、補修などを依頼しましょう。
[全体として]
定期的に以下の管理を行っていますか。
→(管理方法)通気や換気/排水設備の通水/敷地内の清掃/庭木の枝の剪定/郵便物等の確認・整理
相続した家屋や敷地の状態によって、何が問題なのか、このようなチェックリストで一つ一つ確認し、何をどこまで、どの業者に依頼するのか、決めておいてから、具体的な業者の選定に入るとよいでしょう。
また、業者に依頼する際は、チェックリストを活用しながら、「基本サービスにそれらの作業が含まれているか」「オプションサービスとした場合はいくらになるか」についても、確認しておくのがよいでしょう。
業者選びに困ったら、行政の窓口がないか探してみるのも手
令和5年度の国土交通省の調査(※2)によると、賃貸・売却や別荘などを除く空き家は日本全国で385万戸となっています。総住宅戸数に占めるこれらの空き家(空き家率)は5.9%に上っており、今後も増加していくものと思われます。
また、国土交通省のガイドライン(※3)によると、空き家の所有者の約6割が相続によるものであること、普段の住まいから空き家まで1時間以上かかる方が3割いること、空き家を所有する世帯の家計を支える者の6割超が65歳以上であることなど、空き家を自分で管理するのが難しい方が決して少なくない状況です。
もし、ご自身が相続等で遠方の空き家を管理しなければならず、管理を業者に委託する場合は、費用面だけでなく、どの作業がどこまで必要かについて、しっかりチェックしておきましょう。
また、業者を選ぶ際には、どのような悩みがあるのかを、きちんとヒアリングしてくれて、解決方法を示してくれるかどうかも、気を付けておきたいところです。
このような空き家問題は、社会課題でもあるため、行政機関でも相談窓口を設けている場合があります。困った場合は、空き家のある市区町村に一度相談してみるのがよいでしょう。
出典
(※1)国土交通省 自分は大丈夫と思っていませんか? 空き家には適切な管理が不可欠です。 P2 空き家管理チェックリスト
(※2)国土交通省 令和5年住宅・土地統計調査住宅数概数集計(速報集計)結果 P3
(※3)国土交通省 不動産業者による空き家管理受託のガイドライン P1
執筆者 : 酒井 乙
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。