亡くなった母の遺産は自宅と預貯金”120万円”のみです。相続人は姉・私・弟の3きょうだいですが、どのように遺産を分けたらよいでしょうか?
本記事では、それぞれの内容やメリット・デメリット、課税について解説します。
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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現物分割
現物分割とは、遺産をそのまま分割する分割方法です。
不動産ならば不動産のまま、預貯金であれば預貯金のまま分割します。現金や預貯金は比較的容易に分割できますが、土地の場合は1筆の土地を2筆以上に細分化して分割します。この際、地積測量や分筆登記が必要となり、遺産分割協議書に図面を添付する必要があります。
また、1筆の土地が小さくなることによって、使い道が制限される場合や、価値も目減りするリスクがあります。遺産の大半が自宅というような場合は、相続人間で公平に分けるのが難しく、もめる可能性があります。
代償分割
代償分割とは、遺産の分割の際に共同相続人のうちの一人または複数の人が、「法定相続分を上回る金額相当の相続財産」を現物で取得し、その現物を取得した人が「法定相続分以下の相続財産」を取得するほかの相続人に対してお金などを支払う方法です。
例えば、被相続人の不動産を相続人Aが相続する代わりに、その代償として相続人Aから相続人Bに現金を渡す方法です。遺産の大半が自宅などの場合、相続割合の調整が難しくなりますが、代償金に充てるお金があれば、比較的容易に調整が可能です。
ただし、代償分割は実際に不動産等を売却するのではないため、その評価を巡ってトラブルになることがあります。
また、不動産などの現物を相続した相続人には、代償金を支払う能力が必要ですので、財産がないと代償分割は使えません。事前に代償金を準備する方法としては、生命保険の活用があります。生命保険金は、原則として遺産分割協議の対象外ですので、他の相続人の合意を得る必要がなく、受取人固有の財産として自由に利用できるからです。
なお、代償分割についての記載が遺産分割協議書にない場合や、取得した遺産額を超えて代償金または代償財産を渡した場合は、贈与税が課税される可能性があるので注意してください。
換価分割
換価分割とは遺産を処分して(お金に換えて)、各相続人に分配する方法です。現金化するので1円単位で公平な分割ができ、納税資金の準備にも役立ちます。
例えば、夫が亡くなり、土地の法定相続人が妻、長男、長女の3人の場合、その土地が4000万円で売れたとすると、妻が2000万円、長男と長女に各1000万円の現金を分配できます。
ただし、不動産は、売却には時間やコストがかかります。売却を急ぐと、安くしか売れない場合や買い手が付かないリスクがあります。また、売却益に対して所得税や住民税がかかるデメリットがあります。
課税関係
遺産分割の方法でどれを選ぶかで、課される税金が異なります。本章では、各分割方法に応じて課される税金の概要を説明します。詳しくは、税理士に相談してください。
現物分割では、取得した現物(遺産)の価額に応じて相続税が課されます。代償分割の場合、遺産を取得し代償金を支払った相続人には、遺産の価額より代償金を差し引いた金額に相続税が課税されます。
例えば、相続人Aが、相続により土地(相続税評価額4000万円)を取得する代わりに、相続人Bに対し現金2000万円を支払った場合、Aの課税価格は2000万円(=4000万円-2000万円)となります。代償金を取得した相続人Bの課税価格は、2000万円です。
換価分割については、各相続人に対して取得した遺産、売却代金の額に応じてそれぞれ相続税、譲渡所得税が課税されます。ただし、売却が相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内の場合は、支払った相続税から当該遺産に相当する部分を譲渡資産の取得費に加算できます。
まとめ
冒頭のご相談者さまのように、被相続人の遺産の大半が不動産で現預金が少ないケースでは、現物分割は相続人全員(ご相談のケースでは3人きょうだい)に対して公平に分けることができないので適していません。
代償分割は、不動産を売却せずに相続人間の公平性を保つことができますが、支払い側に資力がなければ使えません。換価分割は、不動産を現金で相続するため、現物分割と比べて公平に遺産分割できます。また、納税資金も準備できます。ただし、不動産の売却には時間やコストがかかります。
どの遺産分割の方法が適しているか、それぞれのメリット・デメリットを理解し、税理士のアドバイスも受け、相続人間で話し合うといいでしょう。
出典
国税庁 No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算
国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
執筆者 : 新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。