実家を出て30年。兄が勝手に親の通帳を管理していました。相続の際、問題になることはありますか?
本記事では、久しぶりに里帰りをしたときに、兄が親の通帳を管理していたことを知り、問題があるのではないかと感じたある相談者の事例を基に、問題点について考えてみました。
夢実現プランナー
2級ファイナンシャルプランニング技能士/2級DCプランナー/住宅ローンアドバイザーなどの資格を保有し、相談される方が安心して過ごせるプランニングを行うための総括的な提案を行う
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親の通帳を子どもが管理するケースとは
高齢になった方のなかには、年金の受け取りに銀行の窓口やATMなどに、現金を引き出すために外出するのも面倒になったり、厳しくなったりすることがあります。
そのようなときに、同居する子ども世帯がいる場合には、子どもに現金を引き出してもらうように頼む方も多いのではないでしょうか。その場合はその都度、通帳と印鑑やキャッシュカードを渡すことが多いかもしれませんが、いつものことなので、そのまま子どもが通帳やキャッシュカードなどを持ったままであることも考えられます。
「実の親の生活費であれば、振り込まれた年金を引き出しても問題ない」と考える方もいるかもしれませんが、本来は、ATMから引き出す場合でも、金融機関としては本人以外の取引は不正取引と捉えられます。
このような場合は金融機関に代理取引の申請を事前に行うか、代理人カードを作って、現金の取引を行う必要があります。
代理の取引でも問題に! 相続が発生した場合は?
前項でも説明したように、親名義の口座から現金の取引を行った場合にも、問題が生じます。代理で取引を行っていることを金融機関が確認した場合には、口座の取引を停止する可能性もありますので、注意が必要です。
親も健在で、兄が勝手に通帳を管理していたことが分かった場合、金融機関がどのような使い方をしていたか確認します。このときに親の生活費のため以外の使用が分かっても、親族間であるため窃盗罪や横領罪に問われることはありません。
親から兄への贈与とするのか、勝手に使い込んで親の財産を減らしているのか、などと事情によっては返還を求めるなどの対策が必要になってきます。
では仮に、親が亡くなって相続が発生した場合には、どうなるのでしょうか。
勝手に取引をしていた場合でも、親の生活費の出金など必要な取引であれば、相続時に問題となる可能性は低いとみられます。しかし、親の生活費以上に必要な現金の取引があった場合は「子どもが自分自身のために使っている」と判断されてもおかしくありません。
この場合も親の相続財産を減少させたことになり、減少させた分を合わせたうえで「相続財産」として財産分与を行うことになります。
例えば、2000万円の財産があったとして、兄が300万円を私的に使い込んでいた場合には、相続時には1700万円になっていたとしても、2000万円があったものとして財産分与していくことになります。
仮に贈与として捉えられたとしても……
兄が親の通帳を管理して、預金を私的に使っていたことが分かったケースでは、「面倒をみてもらっている子に、親が預金を渡していた」場合でも、問題になることがあります。
贈与税の課税方法の一つには、1年間に110万円までの贈与であれば贈与税の課税対象とならない「暦年贈与」があります。仮に兄が使っていた金額が110万円以下であった場合には、「非課税で贈与した」ということになります。
令和5年12月31日までは、相続が発生した3年前までの生前贈与も相続財産に加算されていましたが、令和6年1月1日以降は3年から7年に延長されることになりました。ただし、いきなり7年に延長されるのではなく、段階的に実施されます。
具体的には、令和8年12月31日までは「相続開始前3年以内」、令和9年1月1日から令和12年12月31日までは「令和6年1月1日から死亡の日までの間」、令和13年1月1日以降は「相続開始前7年以内」の贈与が、相続財産として加算されることになります。
まとめ
年老いた親と同居している場合に、親の通帳からのお金を出し入れするよう、親自身に頼まれることも多いかもしれません。
親の判断能力が劣ってくると、子どもが通帳や印鑑を管理してしまうこともあるかもしれませんが、本来であれば金融機関で取引ができるのは口座名義人のみになります。
やむを得ず、代わりに取引を行う場合には、あらかじめ金融機関に代理人申請などを行っておくと安心です。親族がほかにいる場合には、通帳を管理していることや、取引に対しても、目的の取引をしていることを明確にしておくことも大切です。
出典
国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
執筆者 : 吉野裕一
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