父が50歳で亡くなり、住宅ローンの残りが「900万円」ある実家を相続するか悩んでいます。家族が返済を引き継ぐことになるのでしょうか?
原則として、住宅ローンは団信で完済される可能性が高く、家族が引き継がないケースが多いですが、ここでは想定される各種事例を見ていきましょう。
ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー
団体信用生命保険(団信)に加入していた場合
多くの住宅ローンでは、契約時に団信の加入が義務づけられています。
したがって、団信に加入していれば、住宅ローンの契約者が亡くなると、保険金が借入先の金融機関に支払われ、残債が完済されます。なお、保険金は相続税の対象にはなりません。
また、相続人が住宅ローンを引き継ぐことはありません。
団信の加入の有無は、住宅ローン契約書または借入先の金融機関などに問い合わせるとよいでしょう。
なお、住宅ローンが返済された不動産は、被相続人の財産として相続税の対象となります。
団信の代わりに民間の生命保険に加入していた場合
民間の生命保険(終身保険、定期保険など)に加入していても、団信とは違い、住宅ローンは自動的に完済されません。保険金を受け取った相続人が、その保険金を使って自分の判断で住宅ローンを返済するかどうかを決めることになります。
以下で、具体的に見ていきましょう。
父親が亡くなり、民間の生命保険会社から家族(指定された受取人)に保険金が支払われます。
住宅ローンの残債(900万円)は、原則として相続人の債務となりますが、相続人は、受け取った保険金を使って住宅ローンを返済することも、返済せずに相続放棄を選ぶことも可能となります。保険金はあくまで「自由に使えるお金」なので、住宅ローン返済の義務づけはされていません。
もし、保険金で住宅ローンを返せそうなら、実家を残しておく選択もありです。ただし、住宅ローンを引き継いでしまったあとで返済が苦しくなるようなら、自身の人生設計も狂ってしまうかもしれません。
それでは相続人が、家も住宅ローンも引き継ぐか(相続を承認)、家も住宅ローンも引き継がないか(相続放棄)の判断はどうしたらよいのでしょうか。
まず、保険金の内容について「金額は900万円以上あるか?」「受取人はあなた本人なのか、他の家族なのか?」を確認しましょう。
次に、住宅の価値として「実家の現在の時価評価額は?」「900万円の住宅ローンを払っても価値が残るか?」もチェックする必要があります。最後に、「引き継いだ実家に将来住む予定があるのか?」「売却して利益が出るのか?」「維持費はいくらか?」などを考えましょう。
住宅ローンを完済できる保険金があり家を残したいと考えるなら、保険金で住宅ローンを返済し相続しましょう。一方で、保険金では返済が足りなかったり、実家を残す必要がなかったり、実家の価値が低かったりした場合は、相続放棄を検討するとよいでしょう。
なお相続放棄は、相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申立てが必要です。
団信にも民間の生命保険にも加入していなかった場合
もし、団信に未加入かつ民間の生命保険にも入っていなかった場合はどうでしょうか。相続する場合は、家と住宅ローンが両方相続されます。保険金がおりない状況で住宅ローンを引き継ぐので、毎月の返済が発生します。
なお、相続を放棄する場合は、家も住宅ローンも引き継ぎません。家を失うことになりますが、住宅ローン返済の義務もなくなります。
まとめ
親が亡くなり実家の住宅ローンが残っている場合、まずは、団信加入の有無を確認しましょう。そのうえで、相続の方向性(承認または放棄)を決めるのがよいでしょう。複雑な場合は、専門家(司法書士、弁護士、税理士、FPなど)に相談するのもおすすめです。
出典
最高裁判所 相続放棄の申述
執筆者 : 水上克朗
ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー