父が亡くなった後に“遺言書”が見つかりました。遺族で「分割内容」をすでに決めていたのですが、遺言と異なる内容での分割は可能ですか?
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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封印のある遺言書は勝手に開封してはいけない
「封印」のある自筆証書遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立ち会いがなければ、開封できません。もし、「封印」のある遺言書を勝手に開封してしまうと5万円以下の過料(行政罰)に処せられますので注意しましょう(民法1005条)。ただし、遺言書そのものは無効にはなりません。
遺言を見つけた人が、遺言を読んで自分に不利なことが書いてあったら破棄するかもしれません。しかし、遺言書を偽造したり、変造したり、破棄したり、隠したした場合には相続人の地位を失うことになりますので注意してください(民法891条5号)。
遺言書の保管者またはこれを発見した相続人は,遺言者の死亡を知った後,遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して,その「検認」を請求してください(民法1004条)。遺言書には、自筆証書遺言書と公正証書遺言書がありますが、公正証書遺言書および遺言書保管所に保管されている自筆証書遺言書は検認の手続きは不要です。
検認とは、相続人に対し遺言の存在およびその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造や変造を防止するための手続きをいい、遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。
検認してもらうには、遺言書(封書の場合は封書)1通につき収入印紙800円分が必要です。
遺言は最大限尊重される
遺言がない場合、民法で法定相続として、誰が相続人になるのかと相続分について定められていますので、これが遺産分割協議の基準になりますが、遺言があれば遺言が優先します。なぜなら遺言は、自分の死後、財産を誰に渡すのか、被相続人の最終的な意思表示であり、その意思を最大限尊重する必要があるからです。
したがって、相続人の一人に全財産を相続させる内容の遺言も尊重すべきです。
しかし、法定相続人(兄弟姉妹以外)には最低限保証された遺産取得分(遺留分)がありますので、遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求権を行使することが認められています(民法1046条)。遺留分侵害額請求権が行使された場合、遺言の内容が修正される可能性があります。
遺言の内容に反した遺産分割の効力
故人の意思を最大限尊重して、遺言のとおりに遺産分割をするのが原則です。遺言と異なる内容の遺産分割を望むならば、取得した財産を任意に処分する方法が考えられます。しかし、この方法では、二度手間になりますし、処分をする際に高額の贈与税が発生する可能性があります。
したがって、遺言執行者が定められていない場合は、遺産分割協議によって相続人全員が合意することで、遺言と異なる内容の遺産分割も可能と考えられています。
一方、遺言執行人が定められている場合はどうでしょうか。
遺言執行者とは、遺言の内容を実行する人で、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を持っています(民法1012条)。
相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができず、遺言に反して相続財産を処分するとその行為は無効になると規定されています(民法1013条1項・2項)。
しかし、遺言執行人が定められている場合も、相続人全員や遺言執行者の同意があれば、遺言に反した遺産分割は当然に無効とはならないと考えられています。
遺言執行者の同意を得ず、遺言に反した遺産分割を行った場合、遺言執行を妨げる行為が行われたとして、その遺産分割は無効となります。
まとめ
「封印」のある自筆証書遺言書は家庭裁判所の「検認」を受ける必要があります。その後の遺産分割は原則として遺言のとおり行われます。
しかし、遺産分割が禁止されている場合を除き、相続人等の全員の合意により遺言(自筆証書遺言・公正証書遺言)と異なる内容の分割も可能とされていますので、よく確認しながら進めていきましょう。
出典
最高裁判所 遺言書の検認
デジタル庁 e-GOV 法令検索 民法
執筆者 : 新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。