「俺は長男で喪主もした」と、父の遺産「6000万円」の3分の2を要求する兄。妹の私は“入院の面倒”など見ていたのですが、平等に受け取ることはできませんか?
しかし、「長男だ」「喪主をした」「入院の面倒をみた」などの理由で、法定相続分よりも多くを要求してトラブルになるケースもあるでしょう。このようなケースでは、どのように相続するのが正しいのでしょうか。
本記事では、生前の事情があった場合に相続にどのような影響があるのか、寄与分の概要と認められる条件、話し合いがうまくいかなかったときの対処方法などを解説します。
2級ファイナンシャルプランニング技能士
長男だからといって相続財産を増やせる?
1947年まで施行されていた旧民法では、家督を継いだ長男が遺産を全て相続していました。しかし、現在の民法が定められてからは、長男だからといって全てを相続できませんし、多くを要求することもできません。
法定相続分の配分では、相続人が子ども2人であれば、2分の1ずつ分けることになっています。ただし、話し合いで妹が納得できれば、兄が3分の2を相続することも可能です。
喪主を務めたり、故人の世話をしたりしたことで相続財産を増やせる?
喪主を務めたり、故人の世話をしたりするなど、ほかのきょうだいよりも負担が大きかったときには、より多くを相続しても良いのではと考えるかもしれません。確かに、民法では「寄与分」によって、法定相続分よりも多くの財産相続が認められています。寄与分とはどのようなものなのか説明します。
寄与分とは
寄与分とは、相続する財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人が、法定相続分よりも多くの財産を相続できる制度です。「貢献とは」以下の内容などがあります。
・故人の家業に従事していた
・金銭などを出資した
・介護や看護をした
これだけをみると、喪主を務めたり故人の世話をしたりすれば、寄与分が認められそうな気もします。
寄与分が認められる条件
しかし、寄与分が認められるためには「特別な貢献」が必要です。特別な貢献とは以下の条件などを考慮して決められます。
・対価を受けていない
・親族間で通常期待される程度を超えた貢献
・財産の維持または増加と因果関係がある
この条件を考慮すると、喪主を務めたり、故人の世話をしたりといったことは「通常期待される程度」の範囲内であるとみなされるでしょう。つまり、仕事を辞めて介護に専念するなど、親族であってもなかなかそこまではできないようなことでもしない限り、寄与分が認められるのは難しいといえます。
したがって、この事例では、通常の法定相続分どおり、きょうだいで2分の1ずつ財産を相続するのが妥当でしょう。
話し合いがまとまらないときはどうすれば良い?
きょうだい間の関係などによっては、お互いの主張を譲らず話し合いがまとまらないことがあるかもしれません。そのような場合はどうすればよいのでしょうか?
話し合いがうまくいかないときは、遺産分割調停を使う方法があります。遺産分割調停とは、裁判所が双方から事情を聞くなどして話し合いを進める制度です。裁判所で手続きを行うため、通常の話し合いよりも話がまとまりやすい傾向があります。
また、調停がうまく進まないときには、自動的に審判手続きが開始されて、裁判官により遺産分割が強制的に決められます。
まとめ
現在の民法では、長男だからといって財産を多く相続することはできません。特別な貢献があれば寄与分が認められるケースもありますが、通常期待される行為を超えるものでなければ認められないため、ハードルは高いでしょう。
話し合いがうまくいかないときは、遺産分割調停などに頼ることになります。しかし、そのような事態にならないように、生前から家族の間でよく話し合っておくことが大切です。
出典
国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
e-Gov法令検索 民法
執筆者 : 山根厚介
2級ファイナンシャルプランニング技能士