夫が亡くなり葬儀費用は「150万円」。夫名義の預金口座がありますが、葬儀費用として使うために引き出しても大丈夫ですか?
しかし、2019年に民法が改正され「遺産分割前の相続預金の払戻し」(仮払い制度)が施行され、亡くなった名義人の口座から一定額までの預金を引き出すことができるようになりました。
仮払い制度を利用して葬儀費用を支払うことができますが、この制度を利用する際の手順や注意点等について解説していきます。
FPオフィス Conserve&Investment代表
2級ファイナンシャルプランニング技能士、管理業務主任者、第一種証券外務員、ビジネス法務リーダー、ビジネス会計検定2級
製造業の品質・コスト・納期管理業務を経験し、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)のPDCAサイクルを重視したコンサルタント業務を行っています。
特に人生で最も高額な買い物である不動産と各種保険は人生の資金計画に大きな影響を与えます。
資金計画やリスク管理の乱れは最終的に老後貧困・老後破たんとして表れます。
独立系ファイナンシャルプランナーとして顧客利益を最優先し、資金計画改善のお手伝いをしていきます。
葬儀費用は誰が準備すべき?
葬儀費用は内容にもよりますが、一般的な葬儀では150万円ほどが相場といわれています。
この葬儀費用は基本的には喪主が支払い、相続時に葬儀費用分を上乗せして受け取ることになりますが、費用を立て替える必要があるほか、相続財産が葬儀費用分に満たない場合などは喪主の持ち出しとなります。
いざというときのために、葬儀費用も含めてすぐに使えるお金を準備しておきたいところです。しかし、預金口座に入れておくと名義人の死亡に伴い口座が凍結されてしまい、手続きを行わないとお金を引き出すことができなくなってしまいます。
故人の預金口座が凍結されるタイミングは?
口座名義人が死亡した場合、金融機関がその死亡を把握した時点で口座の凍結が行われます。死亡情報は相続人から金融機関への連絡のほか、新聞の訃報欄で把握されることもあります。
これ以外にもファイナンシャルプランナーの実務上の経験を通じ、「普段とは異なるお金の動き」によって察知されるケースが多いと感じています。
例えば名義人以外の方が、窓口などで多額の出金を連日行くなどすると金融機関から名義人に確認が行われ、そこで死亡情報を得て口座凍結となることが少なくありません。
また、基本的に死亡についての情報は金融機関同士で共有されることはなく、複数の口座がある場合、各口座の凍結にはタイムラグがあることが多いです。
故人名義の預金口座からお金を引き出すには?
個人名義の預金口座からお金を引き出すには、原則として遺産分割協議を完了させる必要があります。
しかし、2019年7月に民法が改正され、葬儀費用や遺族が生活を送るのに必要な程度であれば凍結中の口座からお金を引き出すことができる「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」が利用できるようになりました。
払戻し制度は金融機関にて手続きするもの、家庭裁判所の判断を経るものの2種類があります。
金融機関の払戻し制度は一つの金融機関あたり150万円が上限で、申請書類は口座名義人の戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、払戻しを受ける相続人の印鑑証明と本人確認書類です。
この制度利用するには相続人全員の協力が必要ですが、遺産分割協議が難航している場合など協力が得られないことがあります。
こうした場合は家庭裁判所の払戻し制度を利用することで、家庭裁判所が認めた金額(150万円超も可)を引き出すことができます。
払戻し制度を利用する際の注意点
払戻し制度を利用すると、単純承認をしたと見なされる可能性が高いため相続放棄を検討している場合は注意が必要です。
また、金融機関の窓口で申請は行えますが、書類確認などで時間を要するため、即日払戻しを受けられるわけではありません。申請は、余裕を持って行うようにしましょう。
払戻し制度には、相続放棄を行えなくなるなどのデメリットがあります。借金のほうが多い場合は相続放棄という手段もありますが、これを選ぶと葬儀費用は喪主負担となります。相続放棄の可能性がある場合は生命保険を利用するなどし、預金や現金以外の方法で工面するとよいでしょう。
出典
一般社団法人全国銀行協会 ご存知ですか? 遺産分割前の相続預金の払戻し制度
執筆者 : 菊原浩司
FPオフィス Conserve&Investment代表