70歳で貯金は「3000万円」です。生前贈与をしたいのですが、妻の介護をしてくれている娘には息子より「500万円」多く渡してもよいでしょうか?
しかし生前贈与は、タイミングによっては相続財産の合計額にも加えられる可能性があります。さらに、家族のそれぞれに渡した金額が異なると、相続財産を分割するときにトラブルになる可能性もゼロではありません。
今回は、相続税の対策として生前贈与をする際の注意点や、相続人によって異なる金額を渡していたときの相続財産の扱いなどについてご紹介します。
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目次
相続したタイミングによっては生前贈与も相続財産に加算される可能性がある
財産を渡した人物が亡くなった場合、被相続人からの贈与のタイミングによってはその財産が相続財産として扱われる可能性があります。国税庁によると、贈与された金額が相続財産として扱われる期間は、相続開始日に応じて以下のように変動します。
・令和8年12月31日までに相続開始:被相続人が亡くなった日からさかのぼって3年前まで
・令和9年1月1日~令和12年12月31日の間に相続開始:令和6年1月1日から被相続人が亡くなった日までの間
・令和13年1月1日以後に相続開始:被相続人が亡くなった日からさかのぼって7年前まで
例えば夫が令和7年7月1日に亡くなったとすると、妻や息子、娘が令和4年7月1日~令和7年7月1日までに贈与された金額は相続税の計算時に加算されます。なお、令和9年~令和12年は加算基準となる年数が変わる経過措置が取られています。
相続人が複数いる場合は生前贈与が特別受益扱いになるケースがある
今回のケースのように、娘と息子に対して異なる金額を贈与していた場合、その差額が「特別受益」であるとされ、相続財産の計算時に対象となる金額が変わる可能性があります。特別受益とは、生前贈与や遺贈などによって特定の相続人が被相続人から受け取った特別な利益です。
特別受益にあたる生前贈与がある場合などは、相続人間で不平等が発生しないように考慮する必要があります。一般的に特別受益があるときは、その金額をほかの相続財産と合算したうえで、遺産分割の金額が決まります。
以下の条件で生前贈与と相続があった場合の妻、息子、娘の相続財産額を確認しましょう。
・生前贈与で妻に500万円、息子に1000万円、娘に1500万円
・生前贈与を除いた相続財産額は4000万円
・法定相続分通りに相続する
・遺留分による侵害は考慮しない
生前贈与額と相続財産額を合計した金額は、7000万円です。7000万円を法定相続分通りに相続すると、妻は3500万円、息子と娘は1750万円ずつです。特別受益がある場合は、法定相続分の金額から生前に受け取った金額を差し引きます。
つまり、妻と息子、娘が実際に相続する財産額は以下のようになると考えられます。
・妻:3500万円-500万円=3000万円
・息子:1750万円-1000万円=750万円
・娘:1750万円-1500万円=250万円
税金対策で生前贈与する場合は基礎控除に注意
税金対策として生前贈与をしたいなら、まず贈与税の基礎控除を把握することが大切です。贈与税は、年間で贈与された金額が110万円の基礎控除を超過した場合に課されます。
例えば、先ほどと同様に、妻に500万円、息子に1000万円、娘に1500万円の生前贈与を行ったとしましょう。この場合、それぞれの課税される金額や税率、贈与税額は表1のようになります。なお、子どもは全員成人しているものとします。
表1
| 妻 | 息子 | 娘 | |
|---|---|---|---|
| 課税される金額 | 390万円 | 890万円 | 1390万円 |
| 税率、控除額 | 20%、25万円 | 30%、90万円 | 40%、190万円 |
| 税額 | 53万円 | 177万円 | 366万円 |
※筆者作成
表1のように、基礎控除を超えた贈与は税金対策のつもりがより大きな税金の負担をかけることにつながる可能性もあります。できるだけ非課税で渡したいのであれば、1年間の贈与額を110万円以内におさえ、複数年に分けて渡すなどの対策が必要です。
生前贈与の金額に差があると相続時の遺産分割に影響が出る可能性がある
相続対策として生前贈与しても、贈与して間もなく亡くなるとその金額は相続財産として扱われる可能性があります。
さらに、相続人が複数いる場合で生前贈与の金額に差があると、相続時の不平等を減らすために生前贈与された金額が法定相続分から差し引かれてしまう場合もあります。
相続人間でのトラブルを防ぎたいなら、渡す金額に差をつけるのではなく、別の形でお礼をするなどした方がよいかもしれません。
出典
国税庁 タックスアンサー(よくある税の質問)No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー