独身の兄、退職金1500万円+貯金1000万円あるそうです。もしものときの相続はどうなりますか? 両親は他界、きょうだいは兄と私のみです
相談する身内がいないと不安でしょう。そこで本記事では、退職金や貯金の取り扱いも含めて整理していきます。
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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法定相続人は1人だが……
独身ということで子どもがいない、両親はすでに他界となると、相続人は「兄弟姉妹」になります。今回のケースでは、ご相談者1人が法定相続人ですから、法定相続分は100%です。
ただし、遺言があれば注意が必要です。兄が遺言書を残していた場合、遺言が優先されます。遺言で第三者や団体などに寄付、遺贈ということが記されている場合、親や子どもと違って兄弟姉妹には遺留分がありません。
遺留分とは、相続人の「最低限の取り分」を法律で保障する制度です。被相続人(亡くなった人、この場合は兄)が遺言で「全財産を〇〇さんにあげる」と書いていても、法律上の相続人には一定割合の遺産を受け取る権利が残されています。妻や子どもがいる場合、「遺留分侵害額請求」という手続きをとることによって、遺留分を取り戻すことができます。
兄弟姉妹は法定相続人ではありますが、遺留分が認められていません。すなわち、ご相談者(妹)が相続人なので、遺言があれば遺言が100%優先され、異議をとなえて取り分を請求する権利がないということです。
遺産の内訳と計算式
今回、遺言がなかったと仮定して話を進めます。
次は、遺産の内訳についてです。
退職金1500万円について、すでに兄が受け取っている場合は兄の預貯金と同様の遺産になります。もし、在職中の死亡等によって受け取った「死亡退職金」の場合は、相続税では「みなし相続財産」となり生命保険と同様の扱いです。そうなると、生命保険と同様の非課税枠(500万円×法定相続人数)が適用となります。
なお、1000万円の貯金については通常の遺産です。兄の死亡後は口座が凍結され、金融機関の相続手続きを経てからの払い戻しとなります。
相続税の有無(概算)
さて、内訳を整理したので、いよいよ本題の「相続税がどうなるのか?」についてです。
相続税には、基礎控除が設定されています。この基礎控除以内であれば、相続税はかからないと理解してください。
基礎控除の計算は、「3000万円+600万円×法定相続人数」という算式で求められます。今回のケースの基礎控除は3600万円となり、退職金がすでに受け取ったものであるという前提に基づけば基礎控除以下となりますので、相続税はゼロです。
仮に、死亡退職金として1500万円が支給されたものだとしても、基礎控除と非課税枠500万円まで非課税枠が大きくなりますので納税は不要です。
手続き・期限など
手続きを進めるにあたって、それぞれ大事な期限がありますのでまとめておきます。
1. 死亡直後
死亡届・年金や健康保険の喪失手続き
2. 1~2ヶ月
相続人の確定(戸籍収集)・財産と負債を確認しましょう。残高証明書の取得も必要です。
3. 3ヶ月以内
借金や連帯保証・未納税などがないかを確認して、「相続放棄」「限定承認」をしたほうがよいかどうかを見極めます。
「限定承認」とは相続によって得た財産の範囲内でのみ、被相続人(兄)の借金や債務を引き継ぐという制度です。兄が多額の借金を残していたことが判明した場合、財産を超える部分は支払わなくてもよいのでプラスの財産があれば受け取れます。
4. 4ヶ月以内
所得税などの準確定申告を済ませます。
5. 10ヶ月以内
必要な場合は、相続税の申告・納付の期限となります。
まとめ
独身で子どもがおらず、両親が他界している場合は、相続人は原則ご相談者1人です。退職金と貯金を併せて基礎控除3600万円の範囲内ですから、相続税は通常不要です。3ヶ月、4ヶ月、10ヶ月の期限を管理して、遺言・受取人の確認と戸籍収集と財産目録を作成します。
もしお兄さまが多額の借金を残しているなど、債務に不安があれば相続放棄や限定承認を検討することになる可能性が出てきます。家庭裁判所への申述と財産目録の作成という煩雑な手続きが求められますので、専門家へ相談するのが安心でしょう。
出典
国税庁 No.4105 相続税がかかる財産
国税庁 No.4152 相続税の計算
国税庁 B1-2 相続税の申告手続
国税庁 第51条関係 相続があった場合の差押え
執筆者 : 柴沼直美
CFP(R)認定者
