都内に亡義父の土地があります。土地の評価額が高くなっていて、「相続税」が払えそうにありません。売却するしかないのでしょうか?
相続税は原則として現金で一括納付する必要がありますが、土地など不動産が中心の相続では現金が不足することがよくあります。そのため、「土地を売却するしかないのでは」と考えがちですが、実は売却以外にもいくつかの方法が用意されています。
本記事では、相続税の納税方法や土地を売却せずに済む可能性について、制度や注意点を交えて解説します。
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住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
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相続税の基本と支払期限
相続税は、被相続人が亡くなったことを相続人が知った日の翌日から10ヶ月以内に申告と納税を行う必要があります。納付は現金一括が原則で、期限を過ぎれば延滞税や加算税が発生し、負担がさらに増えてしまいます。
相続財産が現金や預貯金であればそのまま支払えますが、都内の土地のように評価額が高い不動産を中心に相続した場合、納税資金の準備が難しいことが多くなります。こうしたとき、土地をすぐに売却して現金化する前に、まずは相続税の申告期限内に延納や物納の申請を行うことが重要です。
売却以外に検討できる制度や方法
土地をすぐに売らなくても、相続税を支払うための仕組みはいくつか用意されています。ここでは、延納や物納といった制度のほか、資金調達や税額を減らす特例など、代表的な方法を紹介します。
延納制度
相続税を分割して支払う制度で、相続税額が10万円を超え、かつ現金での一括納税が困難な場合に利用できます。利用するには、相続税の申告期限までに「延納申請書」を提出することが必須です。
延納期間は通常5年以内ですが、不動産が多い場合は最長20年の分割も可能です。利子税がかかり、原則として不動産などの担保の提供が必要ですが、延納税額が100万円以下かつ延納期間3年以下の場合、担保は不要です。
物納制度
延納でも納税が難しい場合、物納制度を利用して国内にある相続財産のうち不動産、国債や上場株式などをそのまま税金として納められることがあります。
ただし、どの土地でも物納できるわけではなく、形状や利用状況など一定の基準を満たす必要があります。評価額は市場価格より低くなることがあり、思ったよりも多くの財産を差し出さなければならない可能性がある点に注意が必要です。
相続税ローンの利用
金融機関が提供している「相続税ローン」を利用して、いったん金融機関から借り入れを行い、相続税の納付資金を確保してから相続税を支払う方法もあります。土地を担保にすることが多いですが、売却を急がずに済む点では有効です。相続税ローンの利用する際には、金利や返済条件をしっかり確認しましょう。
各種特例の活用
税額そのものを抑える工夫も重要です。代表的なのが「小規模宅地等の特例」で、被相続人が住んでいた土地や事業に使っていた土地について、一定の条件を満たせば評価額を最大80%減額できます。
また、配偶者が相続する場合の税額軽減や、未成年者控除・障害者控除なども見逃せません。適用できる要件を満たしている場合には、納税額が大きく減ることがあります。
土地を売却する場合のメリットとデメリット
制度を利用しても支払いが難しいときや、相続人が土地を活用する予定がないときは、売却も現実的な選択肢です。
売却のメリットは、現金化することで確実に納税資金を用意できることや、将来の維持管理費や固定資産税の負担から解放されることです。特に都内の土地は需要が高い傾向にあるため、買い手が見つかる可能性が高く、納税資金を早期に確保できます。
一方、デメリットとしては、土地を手放すことで自分や子どもが将来利用できなくなり、地価上昇などの利益機会を失う点が挙げられます。また、売却によって譲渡所得税がかかる場合もあるため、売却益と税負担を事前に試算し、税理士などの専門家に相談することが重要です。
注意すべきポイントと手続きの流れ
売却にせよ制度利用にせよ、早めの対応が欠かせません。延納や物納を申請するには、財産目録や担保に関する書類を整え、税務署に提出しなければなりません。期限内に申請できなければ認められないため、準備に時間を要する点を忘れないようにしましょう。
また、小規模宅地等の特例を利用する場合、被相続人が亡くなる直前に住んでいた土地や、被相続人と生計を同じにしていた相続人が引き続き住むことなど、細かい適用要件があります。遺産分割協議を早めに行い、誰がどの財産を相続するのかを明確にしておくことが重要です。
相続税の計算は、土地の評価方法によっても大きく変わります。土地の評価方法には路線価方式と倍率方式があり、それぞれの土地の立地条件よりどちらの適用かが決まります。評価方法の違いにより数百万円の差が生じることもあるため、判断を誤らないよう相続税に詳しい税理士に相談し、正しい評価と最適な制度利用を検討することが安心につながります。
売却を急がず、制度を活用して納税方法を考えよう
土地の評価額が高く、相続税が払えそうにないと感じると「もう売るしかない」と考えてしまいがちです。しかし、実際には延納や物納といった制度を利用することで、土地を手放さずに相続税を支払える場合があります。さらに、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を組み合わせれば、税額そのものを大きく抑えられる可能性もあります。
売却は最終的な選択肢として残しつつ、まずはどの制度が使えるのかを確認し、相続人同士でよく話し合いましょう。税務署や税理士に相談すれば、状況に合った解決策が見つかるはずです。ただし、税務署では無料で一般的な相談ができますが、税理士に依頼する場合は報酬が発生するのが通常です。
焦って土地を売却せず、利用できる仕組みを活用して納税する道を探すことが、資産を守りながら安心して相続を終えるための第一歩になります。
出典
国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
国税庁 No.4211 相続税の延納
国税庁 No.4214 相続税の物納
国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
国税庁 No.4152 相続税の計算
執筆者 : FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
監修 : 高橋庸夫
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