長女は子ども3人、次女は独身、孫の教育費として長女に月5万円ほど援助しているのですが、自分の死後、遺産分割でもめてしまうでしょうか?
では、孫の教育資金など、日頃からきょうだいのうち一人だけに資金援助を行っている場合、のちのち相続トラブルになってしまうのでしょうか、本記事で、FPである筆者が「可能性」を探ります。
資産運用の相談業務
資産運用の相談業務のなかで、貯金・生命保険・投資信託・変額年金保険・投資信託・NISAを取り扱い、職員指導も行なった実績を活かし、お客さまから金融商品に限らず、相続などさまざまな相談を受ける。
現在も日本FP協会のSGに参加し、研修を継続中。わかりやすく正確な最新情報の提供に努めている。
相続の“基本”
相続は、相続人の死亡により発生します。相続が発生してから必要なことは、以下の3つです。
(1) 相続財産を確定する
(2) 相続人を確定する
(3) 遺言の有無を確認する
その後必要な場合、相続税の申告・納付を行います。
相続が発生すると、相続人の間で被相続人(今回は親)が残した資産を分けます。相続財産とは、現金、貯金、不動産など、被相続人が残したすべての資産です。プラスの資産だけでなく、借金などマイナスの資産も相続します。
遺言がある場合は遺言のとおりに、遺言がない場合、相続人の間の話し合いで分けます。話し合いで決められない場合、民法で定められた相続分に従い分割します。
1. 配偶者
2. 子ども(孫)
3. 父母(祖父母)
4. 兄弟姉妹(おい・めい)
1. 配偶者のみ=全額
2. 配偶者2分の1 と 子ども2分の1
3. 配偶者3分の2 と 父母3分の1
4. 配偶者4分の3 と 兄弟姉妹4分の1
子どものみの場合は、平等に分けます。子ども2人の場合は2分の1ずつですが、相続の財産は貯金のみでなく、土地・建物のような分けられないものもあります。必ずしもこのとおりでなく、相続人の間で話し合いにより決めることができます。
生前の贈与がトラブルとなる可能性を確認!
生前に援助を受けていることで考えられるトラブルとしては、以下ようなトラブルが考えられます。
(1)受け取った援助が「特別受益」とみなされる
(2)援助を受けていない相続人が、自分は何の援助も受けていないと不公平を感じる
(3)不公平を感じたことで、相続の話し合いが長引く、または兄弟姉妹の不仲を招く
前述のとおり、生前に受け取った贈与が、相続人の間で不公平と思われてしまう場合があります。そのため、生前に法定相続人が受け取っている資産は「特別受益」とみなし相続財産に含めて分割できます。
「特別受益」とは、相続人間の公平を図ることを目的とする制度です。相続人のなかに、結婚資金として多額の資金を出してもらった人、住宅資金に多額の資金の贈与を受けた人、その他多額の資金・品物を、受け取っている人がいる場合、相続人の間で不公平感が生じます。
このような生前に受け取っている資産を、「特別受益」としみなして相続財産に含め、各相続人に分割する制度です。今回のケース場合、生前に受け取った援助が「特別受益」とみなされることがあり、受け取った金額を考慮して分割できます。
ただし、すべてを特別受益とする必要があるわけではありません。相続人の間で、生前の贈与について納得している場合は、不公平を感じることはないかもしれません。
また、遺言で孫の学費のために使ってほしい、など被相続人(親)の思い伝えることで、相続人の間で納得することができるのではないでしょうか。このようなトラブルを避けるための方法として、以下の方法などがあります。
・被相続人を含めた、相続人全員で、生前に相続について話し合いをしておく
・資産を援助した相続人がいる場合、そのことについても伝えておく
・遺言を作成し、遺言があることを伝えておく
また、孫に贈与する場合は、法定相続人にはならないため孫に直接贈与する選択肢もあります。なお、教育資金の一括贈与制度を利用すると非課税で贈与できます。
親の気持ちを伝えておくことで、不公平感を持ち、兄弟姉妹の不仲の原因になるようなトラブルを避けることができるかもしれません。
相続でトラブルとなりやすいその他のケースとは
相続でトラブルとなりやすいケースとして、以下のようなものがあります。
(1)被相続人の財産を一人の相続人が管理していた場合、使い込みなどを疑われる
(2)生前に高額の贈与を受けた相続人がいる場合、他の相続人が不公平と感じる
(3)親の介護の負担が平等でない場合、嫁が介護してなど法定相続人でない場合など介護の貢献に対してどのように考えるか
(4)相続人同士、仲が悪い、疎遠であるなど話し合いが進められない
(5)遺言の内容が不公平
相続については、トラブルとならないように、生前から準備しておくことが大切です。遺言を作成し、遺言の内容についても説明しておきましょう。
また、相続人同士で話し合い、全員が納得できる内容にしておくことも必要です。まずは、話し合いのできる関係を築いておくとよいでしょう。どうしても、トラブルになってしまった場合は、弁護士など専門家に相談することも有効です。
相続により、家族、兄弟姉妹の仲が悪くなることは避けたいものです。対策を考えておきましょう。
出典
内閣府大臣官房政府広報室 政府広報オンライン 知っておきたい相続の基本。大切な財産をスムーズに引き継ぐには?【基礎編】
国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
国税庁 祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし
執筆者 : 神津喜代子
資産運用の相談業務