生命保険が相続対策になると聞いたことがあるのですが、養老保険でも有効ですか?
生命保険の死亡保険金には、法定相続人1人あたり500万円までの非課税枠が設けられています。(相続税法第12条5項)
例えば、相続人が2人なら1000万円、3人なら1500万円までが非課税で受け取れるという仕組みです。相続税の対象となる財産が多い方にとって、この非課税枠は大きなメリットです。
では、貯蓄機能を備えた「養老保険」でも相続対策として有効なのでしょうか?
福本FP事務所 代表、広島県相続診断士 会長、寺院コンサルタント
外資系金融機関を退職後、ファイナンシャルプランナーへ転身。資産運用・ライフプラン・相続・終活と、お客さまの幅広いニーズにワンストップで対応。ミドル・シニア世代、寺院のお客さまのアドバイスを得意とする。人生は一度きり、「今も将来もどちらも楽しむライフプラン」を提案する。
養老保険の特徴
養老保険は、「保険期間中に死亡した場合は死亡保険金、満期まで生存した場合は満期保険金が支払われる」という仕組みの保険です。いわば「貯蓄」と「保障」を兼ね備えた商品であり、これまで教育資金の準備、老後資金の積み立てとして広く利用されていました。
相続の観点から見ると、保険期間中に亡くなった場合に支払われる死亡保険金については、終身保険と同じように非課税枠を活用できます。したがって、「養老保険でも相続対策は可能」といえます。
ただし注意点があります。養老保険は満期を迎えると、契約者自身が満期保険金を受け取ります。この時点で契約は終了し、相続税対策としての効果はなくなってしまうのです。
人生100年時代と養老保険の限界
厚生労働省の「令和6年 簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性で81.09歳、女性で87.13歳となっています。また90歳まで生存する者の割合は男性で25.8%、女性50.2%となっている現代において、問題になるのが養老保険の満期です。
仮に60歳から養老保険に加入しても、満期が70歳や80歳に設定されているケースが多く、そこまで生存すれば保険金は契約者本人が受け取ることになるので、相続税対策にはなりません。
つまり、養老保険は「一定の年齢までに死亡する」ことを前提に設計されているため、長寿化が進む今の時代には相続対策としては不向きになってきているのです。
終身保険がベストとされる理由
一方で、終身保険は一生涯の保障が続く保険です。契約者がいつ亡くなっても、必ず死亡保険金が支払われます。そのため、相続の際に非課税枠を確実に活用できるのが最大の強みです。
また、最近では「一時払終身保険」という種類の保険商品がさまざまな保険会社より発売されています。なかには健康告知不要で90歳まで加入できるものもありますので、より選択の幅は広がったといえるでしょう。
ただし、年齢、健康状態は問題なくても、生命保険は契約ですので、判断能力がなくなってしまった場合は加入ができませんので、加入の検討は早めに行うことをおすすめします。
また、終身保険に限らず生命保険は、書類完備後1~2週間程度で死亡保険金を支払いますので、預金解約よりもスムーズに現金を得ることができる「流動性」があります。これに限らず、生命保険には相続税の非課税枠だけではないメリットがあります。
おわりに
一般的に養老保険は保険期間中に万一のことがあれば、相続対策としての非課税枠を活用できますが、満期を迎えるとその効果は失われ、相続対策としては限定的です。
一方、終身保険は「必ず死亡保険金が支払われる」という仕組みにより、相続時に確実に非課税枠を使えるため、人生100年時代においてはベストな選択肢といえるでしょう。
ただ、最近の養老保険は満期を迎えると終身保険に切り替えができるタイプのものもあります。相続対策を考えるときには、単に「保険に入っているから安心」ではなく、自分の寿命やライフプラン、資産の内容を踏まえて、早めに専門家へ相談すること、定期的にご自身の生命保険を見直しすることが大切です。
出典
デジタル庁 e-GOV 法令検索 相続税法 第12条5項
厚生労働省 令和6(2024)年簡易生命表の概況
執筆者 : 福本知輝
福本FP事務所 代表、広島県相続診断士 会長、寺院コンサルタント