亡くなった母の“遺言書”に「家と預金1000万円を次男に渡す」とありました。相続はこの通りに進むのでしょうか?
しかし遺言書の内容が、相続人にとって都合が悪いケースもあります。今回は、遺言書の内容は変更可能なのか、その際にはどのような手続きが必要なのか、解説します。
1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)、第一種証券外務員、内部管理責任者
“東京都出身。2008年慶應義塾大学商学部卒業後、三菱UFJメリルリンチPB証券株式会社に入社。
富裕層向け資産運用業務に従事した後、米国ボストンにおいて、ファイナンシャルプランナーとして活動。現在は日本東京において、資産運用・保険・税制等、多様なテーマについて、金融記事の執筆活動を行っています
http://fp.shitanaka.com/”
そもそも遺言書とは?
遺言書には、大きく2種類があります。遺言者が自ら作成する「自筆証書遺言」と公正役場で証人の下で作成する「公正証書遺言」です。一般的に、財産の分け方は法律で決まりがありますが、遺言者が特別に「この不動産やお金を特定の相続人に相続させたい」など希望がある場合などに作成されることが多いようです。
財産を相続する予定の相続人は、遺言書の内容を事前に知らされていないケースも多いでしょう。遺言者が亡くなり、遺言書の内容を見て驚くという家庭もあるようです。
遺言書の内容通りではなくてもOKなケース
タイトルのように、「家と預金1000万円を次男に渡す」という遺言によって、長男はほとんど財産がもらえないとなってしまった場合、何か対処法はあるのでしょうか。主な解決策としては、以下の2つあります。
1. 遺言書の内容に従わない
まずは、遺言の内容とは異なる財産の分け方を次男と話し合うという方法です。遺言書の内容は、必ずしもすべてそれ通りに従う必要はありません。相続人全員の同意があれば、分け方を自由に変えることができます。
また相続人は遺言に従わなくても、刑罰等はありません。次男と穏便に財産の分け方を決めることができれば、長男も財産をもらうことが可能です。
2. 遺留分を請求する
遺留分とは、相続人に最低限確保されている遺産の取得割合です。今回、遺言者が長男の財産分もほぼすべて次男に相続するように遺言書を残したとしても、長男には財産をもらう権利(遺留分)があり、その分を請求することができます。
遺言者が母で、相続人が長男と次男だけの場合(父親はすでに死亡)、長男が請求できる遺留分は遺産全体の4分の1となります。遺言者が遺留分のことを知らずに遺言書を作成している場合、遺留分を請求できるケースがあります。
長男は遺産の総額を計算し、少なくても4分の1は相続する権利があることを次男に伝えて話し合いましょう。
相続でもめないためにできること
親の住んでいたい家や預貯金などを相続する場合、兄弟姉妹間でもめるケースが多いようです。相続人全員が納得できる遺言書ならよいのですが、誰か一人だけ相続額が大きいなどの違いがある場合、話し合いが進まないこともあるでしょう。
さらに、遺言者に事実婚の妻や夫がいたケースや、遺言者の離婚した前妻に子どもがいるケースなどは、遺産の分け方が複雑になる場合が多いようです。
相続が発生した場合、まずは遺言書のルールや遺留分について正しい知識を学ぶことが大切です。さらに相続人が複数いて、話し合いで解決しない場合は、弁護士や専門家からのサポートを受けることを検討してみましょう。第三者が入ることで、冷静な話し合いが進むケースが多いようです。
なお、相続税の申告期限は、遺言者の死亡を知った日から10ヶ月以内とされています。期限内に相続手続きが完了するように、後回しをせずに問題を解決していきましょう。
まとめ
親から相続を受けるという出来事は、人生で何回もある経験ではありません。遺言書の取り扱い方や財産の分け方などで、戸惑ってしまうこともあるでしょう。もしものときに備えて、今回ご紹介した遺言書の基本や、遺留分については、内容を把握しておくとよいでしょう。
出典
内閣府大臣官房政府広報室 政府広報オンライン 知っておきたい遺言書のこと。無効にならないための書き方、残し方
国税庁 財産を相続したとき
国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
執筆者 : 下中英恵
1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)、第一種証券外務員、内部管理責任者