親が認知症になり、不動産業者に「売却できません」と言われました。財産が凍結されるって本当?

配信日: 2025.10.22
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親が認知症になり、不動産業者に「売却できません」と言われました。財産が凍結されるって本当?
親が認知症になると、子どもであっても親名義の不動産を勝手に売却・賃貸はできません。これにより実家の売却や賃貸ができず、介護費用の捻出に困るケースが増えています。
 
本記事では「財産凍結」のリスクを具体的に紹介し、家族信託を中心とした備え方をFPである筆者が解説します。
稲場晃美

お金と不動産相続のコンシェルジュ
宅地建物取引士・AFP・住宅ローンアドバイザー・相続診断士

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【実家が売れない】親が認知症で資産凍結! 家族が失う「お金と絆」の深刻な現実

「親が認知症になり、不動産会社から『売却できません』と言われたんです」 最近、このような相談が全国で増加傾向にあります。厚生労働省の推計によれば、2025年には認知症の高齢者が700万人を超え、65歳以上の約5人に1人が認知症になる見込みです。
 
つまり「親の介護や資産管理の問題は誰にでも起こり得る現実」で、決して人ごとではありません。もし、あなたが今、何の対策もしなければ…… 大切に築いた財産、そして家族の絆は、どうなってしまうでしょうか?
 

「財産凍結」の現実。なぜ子どもでも動かせないのか?

「親の家なのだから、子どもが代わりに手続きすればいいのでは?」 そう思われる方も多いでしょう。しかし、親が認知症になると、たとえ実の子どもでも、親名義の不動産を勝手に売却・賃貸はできません。意思能力が失われた状態では、本人の同意が確認できず、法律上、契約そのものが無効になるためです。
 
法務局のパンフレットでも、成年後見制度は「判断能力が不十分な方を法的に保護し、支援する目的の制度」と明記されています。しかし、この“保護”こそがあなたの財産を動かせなくする原因になるのです。
 
実際に「財産が凍結される」とは、不動産だけではありません。銀行口座や証券口座も凍結され、子どもでも親のお金を自由に引き出すことはできません。光熱費や介護施設の支払いが止まり、親の生活そのものが立ち行かなくなることもあります。お金も家も動かせない、これがいわゆる「財産の凍結」です。
 

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対策しなければ直面する、二重の悲劇

親が認知症になった後、あなたが何も対策していなければ、家庭には以下の2つの深刻な被害が生まれます。
 

(1) 家族の不和と心の分断(最も避けたい悲劇)

最も避けたいのは、家族の仲が壊れてしまうことです。親の口座が凍結し、介護費用が払えなくなったとき、献身的に介護を続けた子と、他の兄弟姉妹が「お金を立て替えた」「負担していない」ともめるケースが後を絶ちません。制度の壁が、親の死後も家族の絆を引き裂いてしまうのです。
 

(2) 資産価値の下落と管理の停止

財産の凍結は、不動産の資産価値にも影響します。自宅の売却や大規模なリフォームができなくなるほか、アパートや貸家を持つオーナーの場合、契約更新や修繕ができず賃貸経営がストップします。「親名義だから何もできない」と放置しているうちに、不動産は静かに老朽化し、資産価値そのものが下がり続けます。
 

成年後見制度の厳しい現実

親が認知症になってから財産を動かすには、「成年後見制度」を利用するしかありません。
 
しかし、最高裁判所の統計によれば、成年後見人の約8割は親族以外の専門職(弁護士・司法書士など)が選任されています(図表1)。家族が後見人になれるケースは少なく、見知らぬ専門家が財産を管理する可能性が高いのが実情です。
 
図表1


(出典:最高裁判所事務総局家庭局 成年後見関係事件の概況 ―令和6年1月~12月―)
 
さらに後見人には報酬が発生し、毎月1万~数万円の支払いが続きます。裁判所の許可が必要なため、「資産を守る」ことはできても、「柔軟に活用する」ことは極めて困難です。「家を売って介護費用に充てたい」と思っても、思うように動かせない現実があります。
 

家族信託というもう一つの選択

親が元気なうちに、財産の管理や処分を信頼できる家族に託しておく…… それが「家族信託(民事信託)」です。
 
契約を結んでおけば、親が判断できなくなっても、受託者(子どもなど)が代わりに売却や管理を行うことができます。家族信託は、成年後見制度よりも柔軟に「活用」を継続できる仕組みであり、売却益を介護費用に充てる、賃貸経営を維持するなど、生活に沿った判断が可能です。
 
ただし、制度の機能よりも大切なのは、その名が示すとおり「誰を信頼し、託すのか」という点です。信頼できる家族がいれば家族信託が有効ですが、「家族には任せにくい」「公平性を保ちたい」という場合は、成年後見制度が合う場合もあります。
 

相続は手続き上の問題にとどまらない

相続や財産管理の本質は、法律でも制度だけではありません。相続は「心の問題」です。自分の人生で本当に心や財産をオープンにできる相手は誰か、その問いに向き合わなければどんな制度も意味をなしません。
 
何もしなければ、財産も家族の関係も、ゆっくりと凍っていきます。しかし、今動けば未来は変えられるかもしれません。「誰に託し、どう生きたいか」を考えること…… それが、家族を守る最初の一歩です。
 

出典

厚生労働省 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン) ~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~
法務局 いざという時のために知って安心 成年後見制度 成年後見登記制度
最高裁判所事務総局家庭局 成年後見関係事件の概況 -令和6年1月~12月-
 
執筆者 : 稲場晃美
お金と不動産相続のコンシェルジュ
宅地建物取引士・AFP・住宅ローンアドバイザー・相続診断士

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