夫の遺産800万円を妻の私がすべて相続しました。80歳を超え、さすがに使いきれず、子ども2人に「生前贈与」したいです。贈与税は私が負担しても問題ないでしょうか?
そこで、本記事では、遺産800万円を子ども2人に贈与する場合を例に、贈与税の仕組みを含め、気を付けたい事項についてまとめました。
行政書士
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
贈与税の基本
そもそも、贈与税は、個人が個人から1年間(1月1日~12月31日)で合計110万円を超える財産をもらった場合に、その金額に応じた税率にてかかる税金です。
例えば、あなたが子ども2人にそれぞれ400万円ずつ贈与した場合で考えてみましょう。この場合、290万円(400万円-基礎控除110万円)に対して、それぞれの子どもに贈与税が課税されます。
参考までに、この場合に発生する贈与税は、15%の税率と10万円の控除が適用され、33万5000円となります。
「贈与税は私が払う」は可能?
結論からいえば、贈与税を贈与者が実質的に支払うこと自体は可能です。ただし、そこには注意点が2つあります。
まず1つ目は、贈与税は“受け取った人が支払わなければならないということです。言い換えると、贈与税税額相当額を贈与して、本人がそれを贈与税として納めるということは可能ですが、納税義務者である子どもに代わって、贈与した親が代理で納めることはできないということです。
2つ目に、贈与税を支払うためのお金は、その部分も贈与税の課税対象となるということです。例えば、贈与したいお金400万円に加えて、贈与税のために33万5000円を渡した場合、433万5000円に贈与税がかかるということです。
高齢者の生前贈与で注意すべきポイント
相続税対策として生前贈与を行う場合、贈与者が亡くなる前7年以内の贈与額は、相続財産に加算されることに注意しましょう。
80歳を超えてからの贈与は、相続開始前7年以内の贈与加算ルールにより、節税効果が限定的になる場合があります。子ども2人の場合の相続税の基礎控除は約4200万円です。
逆算すると、相続財産が3400万円までなら、相続税も贈与税もかからないことになるため、税負担が非常に軽くなります。そのため、80歳という高齢での贈与は、よく考える必要があります。
どうしても自分が生きているうちに渡しておきたいが、贈与税で贈与額が実質的に目減りしてしまうのは困るという場合、相続時精算課税制度という仕組みを利用できます。この制度を用いれば、贈与時には税負担せず、相続が起こった際に相続税とまとめて納税できるようになります。
なお、相続時精算課税制度は、届け出が必要であったり、一度選択するとあとで撤回することができなかったりと、柔軟性や利便性に欠ける制度です。
また、贈与目的が子や孫の学費、入院費など、扶養義務関係に基づく贈与であれば、そもそもそれは贈与税の課税対象とはならない贈与ですので、贈与の目的についても一度確認するべきでしょう。
まとめ
贈与税は、年間110万円以内であればかからず、それを超えた部分にかかります。また、生前贈与の場合は、贈与者が80代と高齢ですと、7年以内の生前贈与が相続財産とみなされる仕組みによって、思わぬところで税金が発生してしまう恐れもあります。
加えて、納税は原則本人しか行うことができず、税金相当額を贈与しても、その分も贈与税の課税対象となります。80代という年齢を考慮すると、贈与せずに相続まで自身で持っておくというのも1つの選択肢として十分成立しえます。
このように、贈与や相続にかかる税金は、制度上非常に厳密に扱われます。思わぬタイミングで思わぬ税負担をしないためにも、十分に検討し、そして計画的に行うことが大切になるでしょう。
出典
国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
執筆者 : 柘植輝
行政書士