「孫の大学費用は貯めてある」と話していた父が亡くなりました。せっかくの気持ち、贈与として非課税にできないのでしょうか?
本記事で制度の仕組みと、想いを生かすための現実的な方法を見ていきましょう。
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士、円満相続遺言支援士(R)
外資系IT企業を経て、FPとして「PCとFPオフィス植田」を起業。独立系のFPとして常に相談者の利益と希望を最優先に考え、ライフプランをご提案します。
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目次
結論:残念ながら「利用できない」
非常に残念ですが、ご質問のケースでは「教育資金の一括贈与」の非課税制度は利用できません。理由は、この制度が贈与者の生前に契約が完了していることを前提としているためです(※1)。
なぜ使えないのか? ― すべては「契約」のタイミングにあり
この非課税制度は、単に「孫に教育資金を渡すつもりだった」という意思表示だけでは成立しません。以下の2つを、贈与者(お父さま)の生前に完了していることが条件となります。
1. 金融機関との契約
祖父母(贈与者)と孫(受贈者)が、信託銀行など「教育資金管理契約」などの専用契約を結ぶこと
2. 資金の一括預け入れ
その契約に基づいて、教育資金を専用口座に一括で入金(信託)すること
つまり、この制度は「生前贈与」が完了して初めて成立します。「いずれ渡すつもりだった」「そのために貯めていた」という段階では、まだ贈与そのものが発生していないため、非課税の対象にはならないのです。
注)生前に上記の契約と入金を済ませていた場合は、その部分に限り非課税の対象です。
お父さまが貯めていた資金の行方
お父さまが「孫のため」と目的をもって準備されていた資金も、法的にはお父さまの相続財産の一部として扱われます。
・「教育資金」として特別に切り分けられることはなく、他の預貯金や不動産と合算されます。
・遺産分割協議の対象となり、法定相続人(お子さんなど)が引き継ぎます。
・遺産総額が基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超えると、相続税の課税対象です。
つまり、「孫のために貯めていたお金」であっても、贈与が完了していない以上、法的には“相続財産”扱いになります。
お父さまの想いを「別の形」で引き継ぐ方法
「制度が使えないなら、父の想いは無駄になってしまうのか」
いいえ、そんなことはありません。お父さまの遺志を引き継ぐ、最も確実で現実的な方法があります。それは、相続人であるご家族が、相続した財産からお孫さんの教育費を都度支払うことです。
「都度贈与(都度支払い)」とは?
お孫さんが大学に入学する際に「入学金」を支払い、翌年に「授業料」を支払う。このように、教育費として必要になったタイミングで、必要な額を直接支払う方法です。
この「都度贈与」は、そもそも贈与税の対象外です。親や祖父母が子や孫の教育費や生活費を必要なときに支払うことは、法律上の「扶養義務の範囲内」とみなされます。
◆ポイント
教育資金の一括贈与制度は「将来分までまとめて贈与できる」制度でしたが、手続きが煩雑で制限も多い制度です。一方、「都度贈与」は柔軟かつシンプルに実行でき、税務上も安心です。
お父さまが残された財産をご家族が相続し、その資金を原資として、お孫さんの進学の節目ごとに学費を支払っていく…… それこそが、お父さまの想いを最も堅実に引き継ぐ方法といえるでしょう。
教育資金一括贈与の非課税制度は「2026年3月31日」で終了予定
現時点(2025年11月)では、この非課税制度は2026年(令和8年)3月31日までの契約をもって終了する予定です。その後の取り扱いはまだ決まっていませんが、延長を求める声も上がっています。
・文部科学省は、2026年度税制改正要望として制度の延長を財務省に求めています(※2)。
・最終的な決定は、例年12月に公表される「令和8年度税制改正大綱」で明らかになります。
・もし延長される場合でも、要件の厳格化など内容が変更される可能性があります。
まとめ
生前に契約や入金が完了していなかった場合、「教育資金の一括贈与」非課税制度を使うことはできません。しかし、それでお父さまの想いが途絶えるわけではありません。
相続した財産をもとに、お孫さんの教育費を「その都度」支援していく。それが、制度に頼らずともできる、最も確実で温かい形の贈与です。
まずは相続手続きをしっかり進め、必要に応じて税理士など専門家へご相談ください。お父さまの想いを次の世代へ正しくつなぐことが大切です。
出典
(※1)国税庁 祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし
(※2)文部科学省 令和8年度文部科学省税制改正要望事項
執筆者 : 植田周司
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士、円満相続遺言支援士(R)
