弟夫婦から「実家の土地」に“5000万円の家”を建てたいと相談が! 両親は「安心する」と喜んでいますが、独身で“長男の自分”が相続する予定の土地ですし、トラブルにならないでしょうか…?
しかし、自らが相続するはずの実家の土地に、きょうだいが家を建てるという話を聞くと、心中穏やかではないでしょう。本記事では、両親と暮らす独身の長男がいる状態で、弟夫婦が実家の土地に家を建てる場合を例に、起こり得るトラブルやその対処について、長男の立場から考察します。
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親の土地は誰に相続の権利があるのか
長男の立場で考える場合、まず自分にどのような相続の権利があるのか、理解しておく必要があります。少なくとも相続財産の遺族への分配については、相続人ではなく、被相続人である親が、どのように財産を遺贈したいと考えているかが優先されます。
それを認識した上で法律に照らせば、相続人には法定相続分と呼ばれる権利があります。法定相続分とは、故人と相続人の続柄による相続財産の分配目安のことで、きょうだい間では均等です。例えば、兄と弟の2人兄弟で両親が亡くなった際、法定相続分は2分の1ずつです。
つまり「実家で親と暮らしている長男」という理由だけで、長男が実家の土地を相続することはできません。逆に考えれば、弟夫婦が実家の土地に家を建てたからと言って、弟が自動的に相続できるわけでもありません。そのため、実家の土地を誰が相続するかは、親が遺言書として意向を残しておくか、相続人間で話し合って決める必要があります。
弟夫婦が家を建てた際、考えられるトラブルは?
それでは、弟夫婦が家を建てた際に考えられるトラブルを考察してみましょう。まず、最初に考えられるのは、実家の土地の相続を巡るトラブルです。
遺言書がない状態で、長男も弟も土地を相続する意向があれば、話し合いがまとまらず名義変更ができないかもしれません。2024年4月から相続登記は義務化されており、放置すると過料の対象にもなります。話し合いがこじれれば、家庭裁判所での調停などを利用して分割方法を決めるしかありません。
では、仮に長男の思惑どおり、遺言書などで土地を長男が相続した場合はどうでしょう。このケースでも、弟の家が建っていれば、長男は土地を有効に活用できず、売却などで現金化することも困難でしょう。
長男としては、弟に土地を買い取ってもらうか、せめて土地の賃料ぐらいは欲しいところでしょう。しかし、弟も5000万円もの家を建てていれば、多額の住宅ローンなどを抱え、土地代や賃料を払う余裕はないかもしれません。
親の生前は無償で土地を借りるケースもあるでしょうから、長男の思うとおりにはならないことも多いでしょう。法定相続分に沿って共有にする方法もありますが、いずれにしても土地に弟夫婦の家が建っていれば、長男にはあまりメリットがありません。
長男の立場から、トラブルや不利益を回避するには
このような将来的なトラブルや不利益を回避するには、現時点で長男にどのような行動が求められるでしょうか。まず考えられるのは、被相続人である親や、もう1人の相続人である弟に、相続についてどう思っているのか率直に話を聞いて見ることです。
親の亡くなったあとの相続の話を、親にするのは少し気が引けるかもしれません。しかし、きょうだいが実家の土地に家を建てるとなると、相続財産に大きな影響を与えるのも事実です。
そのため、相続の権利を十分理解した上で、親の意向を確認しながら自分の考えも伝え、冷静に話し合ってみる必要があります。少なくとも、疑念を抱え、親族間に共通認識のないまま弟夫婦が家を建ててしまい、後々トラブルになるよりは賢明でしょう。
もし、相続財産に不動産以外の預貯金などもあれば、親が相続財産全体を見て、きょうだいへの配分を考えている可能性もあります。仮に実家の土地が広大であれば、分筆といった別の手法が有効かもしれません。納得のいく話し合いができれば、親から遺言書として残してもらうことで、将来的なトラブルの可能性は限りなく低くなるでしょう。
また、自身の相続分が極端に少なかった場合の話ではありますが、相続人には「遺留分」も認められています。
今回のケースで考えると、遺言書の内容にかかわらず、長男は法定相続分の半分、つまり相続財産の4分の1までは、もう1人の相続人である弟に「遺留分」として請求可能です。自身の権利をしっかり把握して話し合いに臨んでみましょう。
まとめ
自分が相続するはずの実家の土地に、弟夫婦が家を建てるとなれば、相続時のトラブルが気になるのも無理もありません。しかし、現時点では実家の土地は親の所有であり、長男は将来の相続人の1人に過ぎません。
そのため、先に相続に関する自身の権利などを正確に把握し、その上で被相続人である親や同じ相続人である弟との間で、相続に関する共通認識を持つことが重要になります。誰であっても、相続時のトラブルは避けたいものでしょう。まずは、弟夫婦が家を建てることについて、どのように考えているのか、親に尋ねてみてはいかがでしょうか。
出典
法務省 不動産を相続したらかならず相続登記!
裁判所 遺産分割調停
執筆者 : 松尾知真
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