認知症の父に「自分に有利な遺言書」を作成させた兄。介護は「弟の自分」がしているのですが、実際は“遺言書が優先”されるのでしょうか…?
本記事では、遺言書の基本的な仕組みや、判断能力に不安がある人が遺言書を作成した場合の有効性、さらに介護などの貢献がどのように「寄与分」として評価されるかについて解説します。
FP2級、日商簿記2級、宅建士、賃貸不動産経営管理士
遺言書の基本的な仕組み
遺言書とは、被相続人(亡くなった親)が生前に「自分の財産を誰にどれだけ残すか」を示す意思表示を、書面に残したものです。
遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、これを普通方式遺言と呼びます。なお、特別方式遺言という特殊な遺言書もありますが、作成できる場面は限られています。
中でも手軽に作れるのが「自筆証書遺言」です。本文は遺言者自身が手書きで作成する必要がありますが、筆記用具や紙に特別な条件はなく、ボールペンやノート、印鑑があれば作成可能です。
また、財産目録を添付する場合、その目録は必ずしも手書きである必要はありません。多くの財産をまとめて記載したい場合は、本文に「別紙財産目録1に記載の財産をAに相続させる」と書き、パソコンで作成した財産目録を添付することで対応できます。
今回のケースでは、兄が有利になるよう作成された遺言書が「自筆証書遺言」と想定し、本文を進めていきます。
判断能力が低下した状態で作成された遺言書は有効か
遺言書が有効かどうかは、作成時に遺言者に「遺言能力」があったかどうかが重要です。遺言能力とは、自分の行う遺言の内容や結果を理解し、判断できる能力を指します。そのため、認知症がひどく意思能力をほとんど失っている場合には、遺言書は無効となる可能性があります。
一方で、軽度の認知症や物忘れ程度であっても、遺言内容を理解し適切に判断できていれば有効とされることがあります。
今回のケースでも、遺言書作成時に父が軽度の認知機能低下の状態であったのなら、遺言書が有効となる可能性も考えられます。実際には、作成時の状況や証人の有無などが判断材料となり、必要に応じて家庭裁判所で確認される場合もあるでしょう。
親の介護などで評価される「寄与分」とは
「寄与分」とは、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人が、その貢献度に応じて本来の法定相続分より多く遺産を受け取れる制度です。
寄与分を認めてもらうためにはいくつかの条件があります。まず、親子間の通常の関わりを超えた「特別な」貢献であること。次に、無償またはそれに近い形で行われていること。
そして、介護や支援が一定期間、継続的に行われていること、さらに専従的であることも重要です。加えて、その貢献が財産の維持や増加に具体的に結びついている必要があります。
これらの条件を満たしていれば、寄与分として遺産に上乗せして取得できる可能性があります。
現段階であれば書き換えが有効
ここまでの内容を踏まえると、「自筆証書遺言」は現段階で内容を見直し、書き換えてもらうことをおすすめします。より確実に遺言の効力を保ちたい場合には、公正証書遺言にしておく方法も有効です。
介護に関しては「寄与分」といった制度もありますが、まずは相談者が納得できるよう父と話し合い、場合によっては専門家も交えての遺言書作成を検討すると良いでしょう。
執筆者 : 村吉美佳
FP2級、日商簿記2級、宅建士、賃貸不動産経営管理士