自宅の「終活」を考える 負の遺産として相続させないために
配信日: 2020.07.09
人口減少で空き家問題が深刻に
人口減少社会の中で少子化と核家族化が進み、地方ではもとより都会でも空き家が急速に増えつつあります。戸建て住宅やマンションの新規建設はテンポよく進んできましたが、そのことで住宅供給が過剰となったことも原因です。
親から独立した子ども世代が住宅を購入すると、親と暮らしていた住まいに戻ることはまずありません。以前であれば兄弟姉妹が多くいると、誰か1人が親と同居する、または親が亡くなった後に実家に戻る、といったことがありましたが、少子化の影響で少なくなりました。
日本全体を見ても、空き家の数は全国で約900万戸、全住宅の14%以上という驚きの数字です。しかも年々この数字は上昇しています。
空き家の中には、賃貸を予定しているが入居者がいない、別荘として利用しており定住していない、といった住宅も含まれますが、それにしても高い数字であることには間違いありません。
本来、空き家は圧倒的に地方に多いといわれてきましたが、最近では、大都市近郊や大都市内部でも急速に増えています。
総務省の「住宅・土地統計調査」(2018年)によると、東京23区の空き家数は、世田谷区で約5万戸、大田区で約4万8000戸にもなっています。東京のような大都市でも、これだけ空き家が増えているのです。
その多くは親が亡くなった後に放置され老朽化した住宅です。団塊の世代が80歳を超える10年後には、さらに増えることが心配されます。
相続放棄や未登記で空き家が増える
このような事態となった背景には、相続そのものを放棄する、他の資産もあり相続をしたが登記を済ませていない、といった事情が増加していると考えられます。特に地方の土地は利用方法が限られるだけでなく、利用価値の少ない不動産を相続しても、相続税だけでなく固定資産税などを払う必要に迫られるためです。
さらに親が亡くなった後に「実家の整理が大変だ」と考える人も多いのです。親からは「資産を子どもに残す」ことは美談と思うかもしれませんが、子どもからすれば「負の遺産」としか考えられないのです。
親が亡くなった後の実家の片づけは、子どもにとって頭の痛い問題です。日ごろから実家の今後について親子でしっかりと話し合いがもたれていれば、まだ解決策は見つけられます。
しかし親子間で話し合いがない場合は、非常に大変です。取りあえず両親の家を相続はしたものの、賃貸も売却もできず、空き家として放置することで大きな問題が発生します。
空き家を長期に放置しいっそう老朽化が進めば、周辺環境も悪化し、行政指導などで思いがけない負担を背負うことになるかもしれません。またマンションなどを相続すると、通常の税金以外に管理費や修繕積立金などを支払う必要が出てきます。
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親は自宅の将来を子ども任せにしない
空き家対策は相続が発生してからでは遅いのです。特に遠方に生活している親ほど、自分の住まいを将来どうするのかは考えておく必要があります。長い間住み続けると難しいのですが、自宅内の家具、衣類、調度品の整理・処分など、親自身がいわゆる「生前整理」を進める必要があります。
その上で、自宅の土地や住宅をどうするのか、子どもたちと相談し方向づけをしましょう。
具体的には、子どもの1人が相続するのか、可能であれば売却するのか、リフォームして賃貸できるのか、取り壊し更地にするのか、などを家族間で確認することです。子どもが複数いる場合は、全員で相談することが、子ども間のトラブル防止につながります。
親の亡くなった後で「遺品整理」をするのは、子どもには大きな負担です。親の心情を考えると、取捨選択に迷う品物が出てくるからです。
親に生前整理の認識がないと、自宅内にほとんど使っていなかったモノまで残り、自分たちの死後、子どもたちが非常に迷惑をかけることになります。これが原因で、遺品整理が思うように進まず、空き家状態となる場合もあるからです。
「財産を残す」の意識は障害になることも
親からすれば「財産を残す」との気持ちがあるかもしれませんが、子どもの立場では「かえって迷惑する」財産も多いのです。
預金、株式、貴金属などは相続財産として非常に歓迎されると思いますが、住んでいた家だけでなく、趣味で集めた品物の多くは、子どもには不要なモノです。仮に先祖代受け継がれた骨董品でも同様です。特に都会のマンション暮らしの子どもでは、収納スペースに限りがあり、遺品を保管すること自体ができないからです。
親は、子どもの実情を理解しておくことが大切です。特に地方の場合、将来できるだけ空き家にならない方策を考えましょう。例えば、近くに住む親戚がいれば譲渡する、地方自治体に公共用地として提供する、といったことが可能か検討します。
書画・骨董などの美術品は、意外に喜ばれるかもしれません。特に新コロナ危機以降、土地の取引価格は日本全国どこでも下がる傾向にあり、思いどおりの価格では売れないことは覚悟する必要があります。
都会に住んでいる親でも、子どもがすでに独立し住まいを持っている場合は、親の住居に戻る可能性は少ないと思われます。もし売却が可能な土地であれば、子ども全員で意思確認をさせて、相続時点で速やかに行動できるように準備しましょう。
ただし売却のタイミングにより、各種の特例が使える場合があり税金も変わってくるので、この点は確認しておくとよいと思います。親の立場で「思い出の詰まった家なので誰かに住んでほしい」といった感情を、なるべく抑えることも必要かもしれません。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト