かんぽ生命の「不適切販売」は何がまずかったのか。保険契約者がすべきこととは?
配信日: 2020.02.13
執筆者:馬場愛梨(ばばえり)
ばばえりFP事務所 代表
自身が過去に「貧困女子」状態でつらい思いをしたことから、お金について猛勉強。銀行・保険・不動産などお金にまつわる業界での勤務を経て、独立。
過去の自分のような、お金や仕事で悩みを抱えつつ毎日がんばる人の良き相談相手となれるよう日々邁進中。むずかしいと思われて避けられがち、でも大切なお金の話を、ゆるくほぐしてお伝えする仕事をしています。平成元年生まれの大阪人。
かんぽ生命の「不適切販売」とは
今回のかんぽ生命の件で問題とされたのは、高齢等で認知機能が低下している契約者に無理やり保険を売りつけるような行為や、お客さんを誤解させるような説明をして、高額な契約をさせるなどしていたということです。
しかもそれが数件どころではなく、法令や社内ルールに違反する疑いがある件数は、2020年1月31日時点でわかっているだけで20万件を超えています。
また、かんぽ生命には申し込みから最大3ヶ月の間は契約を撤回できるという、クーリングオフのような制度があります。この撤回件数が年間6万件~7万件、新しく契約したうちの約30件に1件の割合で発生していたという報道も出てきています。
かんぽの契約撤回可能期間は、他社のクーリングオフ期間と比べて長いため、単純に比較はできませんが、それを差し引いてもかなり多いのではないかと同業他社から指摘されています。範囲も全国にわたることから、これは営業社員個人だけではなく組織的な行為なのではないか、ということで大きな問題になりました。
■その後の対応は?
今回の問題を受けて、金融庁は2020年1月1日から3月31日までの3ヶ月間、保険募集および保険契約締結の停止を命じました。そのため現在、かんぽ生命のホームページの一部が閲覧できなくなるなどしています。
ただ、自分から「加入したい」と窓口で申し出た人や、提携して扱っているアフラックなど他社の保険は引き続き加入できます。もちろん契約内容の変更や解約の手続きは今までどおり郵便局内でも可能ですし、保険金の受け取りも問題なくできます。
また、業務停止命令だけではなく、今後きちんとまともに保険募集を行っていくための管理体制の強化などを命じた業務改善命令も併せて出ています。
こういったこともあり、かんぽ生命、日本郵便、日本郵政では社長陣が引責辞任し、新しいトップのもとで改革を図っている最中です。不適切な保険募集をした職員の懲戒処分なども行われています。
どんなお客さんがどんな迷惑を被ったのか
詳細はまだ調査中とのことですが、特別調査委員会によると法令や社内ルールに違反している可能性がある契約の契約者のうち70%余りが60歳以上、85%が女性というのが今のところわかっている内容です。
具体的には以下のような事例が挙げられています。
・新しい保険に乗り換えるようすすめられて前の契約を解約したら、過去の病気などを理由に新しい保険への加入ができず、無保険状態になった。
・医療の保障を充実させたいというお客さんに対し、本当は今の契約に特約を追加すれば済むところを、すべて解約させて新たな契約を結ばせた。
・過去に加入していた利率の高い(お客さんにとって有利な)契約を不十分な説明で解約させ、同じ内容で利率の低い保険に乗り換えさせた。
・本来すぐに乗り換えられる契約を、会社側の営業成績計上の都合で前の契約を残したまま新しい契約を結び、保険料の支払いが二重に発生する期間があった。
適切な説明をせず、お客さんがきちんと理解できない状態のまま「いつの間にかよくわからない契約に乗り換えられていた」というような例もあるようです。法律やルールを軽視し、お客さんの利益よりも営業成績向上やノルマ達成を優先してきた企業風土が原因の1つとみられています。
保険を契約中の人はどうすれば良い?
こういった問題は人ごとではないかもしれません。自分や家族の保険契約に無頓着な方も少なくありませんので、定期的にチェックしておくことが大切です。
同居の家族だけではなく、遠方に住む親の契約なども要注意です。かんぽ生命の場合は「年金生活を送る70代女性が、営業社員に言われるまま保険料が毎月10万円以上にもなる保険を契約していた」というような例もありました。
そこまでのことはないだろうと思うかもしれませんが、念のため「万一の際に役に立つ状態になっているのか」「保険料を払い過ぎていないか」「保障の不足はないのか」「自分以外の家族は自分の保険内容について知っているのか」など、一度自分自身や家族に問いかけてみると良いでしょう。
自分や家族を守るためには、保険の営業の人を妄信して任せてしまうのではなく、自分である程度知識を付けて、自分の頭で考えたうえで話を聞くといったことも必要でしょう。これはかんぽ生命だけではなく、ほかの保険契約や、運用商品の購入やローン契約など、大きなお金が動くような状況においても大切なことです。
(出典)
かんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会「調査報告書」
金融庁「日本郵政グループに対する行政処分について」
総務省「かんぽ生命保険の不適正募集に係る一連の問題に関する監督上の命令等」
朝日新聞「契約撤回、他社も驚く30分の1 かんぽ内部資料で判明」
毎日新聞「かんぽ、尽きぬ不正 調査対象新たに22万件と大幅増」
執筆者:馬場愛梨
ばばえりFP事務所 代表