人生100年のビジョンマップ:心もお財布も幸せに生きよう!PART4
金融庁総務企画局参事官・油布志行さんに伺う (3)世界の優良企業の株主になろう
Interview Guest : 油布 志行(ゆふ もとゆき) 金融庁 総務企画局 参事官(総合政策・資産運用担当)
配信日: 2018.06.20 更新日: 2019.01.11
この対談企画では、様々な分野の方にお話しをお聞きし人生100年時代のビジョンを読者のみなさんと作り上げていきたいと考えています。
今回は金融庁参事官、油布 志行(ゆふ・もとゆき)様にお話を伺いました。
今回はその3回目、いよいよ長期資産形成の本質について具体的かつ分かりやすくお話をしていただきました。
Interview Guest
金融庁 総務企画局 参事官(総合政策・資産運用担当)
1989年大蔵省入省。2008年以降、金融庁にてNISA導入やコーポレートガバナンス・コード策定等を担当。2015年より現職。つみたてNISAの導入に携わる。52歳
interviewer:山中伸枝(やまなか のぶえ)
ファイナンシャルプランナー(CFP)
株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役
1993年米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。メーカーに勤務し、人事、経理、海外業務を担当。留学経験や海外業務・人事業務などを通じ、これからはひとりひとりが、自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、お金のアドバイザーであるファイナンシャルプランナーとして、講演・相談・執筆を中心に活動。
世界の経済成長から果実を得る
山中:そろそろ日本国民も、世界の経済成長から果実を得るという本質を、しっかり理解しないといけませんね。
油布:我々は、特定の株式に全額をつぎ込むようなそういう投資の仕方ではなくて、海外の成長も取り込んだりする分散投資をおススメしているわけです。
日本経済よりももっと、他の国の方が資金を必要としていますので、そちらにゆだねた方が基本的にリターンは高くなるはず。
ですから、図表3のCで示したように、日本と先進国と新興国の、株と債券に6分の1ぐらいずつ投資したらどうだったでしょうかというのがこのグラフです。
もちろん、リーマンショックがあったりすると、どーんと含み損が一旦出るんですけど、長い目で見ると、取り返すことができているっていうのがこれまでの実績です。
また同じような投資を5年間継続したものと20年継続したものとの比較が図表4です。投資期間が短いと、いつ始めたかによって損が出ることもあるんですが、長期で見たときには、しっかりとリターンが出てるってことなんです。
図表3:長期・積立・分散投資の効果(実績)
図表4:国内外の株式・債権に積立・分散投資した場合の収益率(実績)
山中:金融機関が提供する数字っていうのは、やっぱり商品ありきにどうしてもなってしまうのですが、この情報は、俯瞰したものなので分かりやすいし事実としてスッと頭に入ってきます。
油布:これは過去の実績ですから、来年必ず儲かるとはだれにも言えないですよね。でも、こういった事実も、世の中にメッセージとして出して行くべきなのではないかということで、この数年、金融庁でもこういうデータを使うようになりました。
山中:私、海外の資産も取りこんで「分散投資」を推奨するという金融庁の姿勢にものすごくメッセージを感じるんですね。日本に投資をして、日本の経済が良くなればいいじゃないかというところに落ち着いてしまわず、事実に基づいて国民を正しい方向にむかわせようという想いを感じます。
油布:日本のいわゆる大企業サイドにお金を回すという観点で言えば、国内株式だけに投資してもらった方がありがたいんです。
でも、個人の資産形成の側面からすると、日本経済だけに資金をゆだねるよりは、アメリカやヨーロッパのような先進国やアジア諸国も含め、世界経済に幅広く分散した方がやっぱり合理的ですよね。こういうと、日本株に投資するなって言ってるのかってお叱りを受けることもあるんですけど。
山中:あるでしょう、それは。
油布:でも、世界中に投資するってことは、要は世界経済の成長そのものと同じリターンが期待できるんです。
日本経済だけだったら、バブルの崩壊の例にあるように、長い間投資が実を結ばないこともあるんですが、世界経済に幅広く投資をすれば、まさに世界の成長そのものなので、同じだけの運用果実がとれるはずなんです。
山中:ただあの、何て言うのかしら、投資の言葉って難しいなと思う時があって、例えば、資産運用にはリスクがあるから、おっかないよね、なんて端的な理解で終わってしまうことがまだまだある。
油布:流行りの行動経済学では、人間は1万円儲かったときの嬉しさよりも1万円損した時の痛みの方がはるかに上回るそうで、「損失回避バイアスがある」って言うらしいんです。
でもこういったファクトを示していくことで、リスクやリターンを長期で考えられるように、投資家の目線を変えていく、販売サイドの目線も変えていくって努力は続けたいと思います。
金融庁の職員さんも、実は私たちと同じなんですね
油布:確かにまだまだ資産形成は、うさん臭く思うっていうのがあると思うんです。極端な例では、単に株価を上げるためにやってるんじゃないかって。でも、そういう意図ではないってことを粘り強く説明していく。
そういうこともあり、職場つみたてNISAというのを始めてまして、まずは率先して金融庁職員にやってもらうことにしました。
実は、金融庁職員もあまり投資については、前向きじゃないんです。匿名アンケートで金融商品の保有状況を見ると、金融庁の職員なのにこれまで株も投資信託も全く買ったことが無いって人が、55パーセントいるんです。
その理由は、損をするのが嫌だ、投資が難しそう、まとまった資金が無いとか、一般の方と変わらない部分があります。
その一方で、庁内ルールによる自粛っていうのがあって、金融庁なので、株式の取引はインサイダー規制などに触れてはいけないので取引の報告書とか必要だったりするんですが、そういう手続きが必要ない投資信託までやめてしまおうというムードもあるんです。
ですから、つみたてNISAは事前の届け出も事後の報告も何もいらないし、インサイダー取引になりようもない、全く問題はないんですよという通知文を出しました。案外、経済官庁とか、新聞メディア、テレビとか、こういう点を気にして誤解している方が多い。
山中:金融機関もそうですね。逆に身をもって投資をしていない人が投資信託を販売しているような現実があります。
油布:でも庁内で説明会をやったら、つみたてNISAを活用したいという人が4分の3ぐらいでした。絶対に嫌だという人も20%ほど、やっぱりいますね。
山中:なんだ、みんな同じですね(笑)。まあ、金融庁さんも過渡期であるということですかね。でも少しずつでも景気とか物価、株価とかいうものが私たちの生活を豊かにするひとつのファクターだってことが分かってくると、投資に向いていくのかもしれません。
油布:そうですよね。お金というのは、やっぱりいい方向に循環させていくってことがすごく大事だと思うんです。例えば、景気がいいかどうかっていうのは、案外消費者の実感からすると分かりにくいですよね。
でも景気が良くなる、インフレになるっていうことは、学生さんや主婦の方であれば、パートタイム、アルバイトの時給の上昇っていう形で実感できてくるはずなんです。
これ、一番先に値段が上がるところです。現実にデータを見ても、この数年前までせいぜい上がっても年に1%台だったのが、去年は、2.5パーセント前後まで上がってるんですね。
アルバイトとかパートさんは、正規の雇用と違って、都合で辞めたり、時給の良い他のお店に変えたりするっていう傾向が強いので、人集めするには時給を上げざるを得ないという現実がある。
ただ、それを今度、正規の従業員の賃上げっていう形で広げていかないといけないわけですが、まだ企業サイドは、先行きに自信が持てないのか、ご案内のように、まだそれほど多くは上がらないと報じられています。
好循環を回すためにも、正規職員にも賃上げを広げていかないといけないから、政府サイドは働きかけを続けていくだろうと思います。
山中:息子さんのバイトの時給はどんどん上がっていくけど、お父さんの給料はなかなか上がらないんですね。
油布:そうであれば、なおさら資産形成が大事になるかもしれません。お金にも働いてもらうということです。例えば世界に冠たる企業に全員が就職することはできないわけです。でも少なくとも、それらの会社の株主になることはできる。
山中:あつ、なるほど。発想の転換。それはいい言葉ですね。
油布:世界の超一流企業の社員にはなれなくても、世界の超一流企業の株主にはなれるわけですから。そういう視点も持つと良いのではないでしょうか。
その時には、どこか一社の株式を買うのではなく、そうした優れた企業を集めた投資信託を買う方が、リスクが分散できますね。
interviewer:山中伸枝(やまなか のぶえ)
ファイナンシャルプランナー(CFP)
株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役
Photo:新美 勝(にいみ まさる)
フリーランス・フォトグラファー
人生100年のビジョンマップ:心もお財布も幸せに生きよう!PART4
- 1: 金融庁総務企画局参事官・油布志行さんに伺う(1)金融庁のお仕事はドラマ「半沢直樹」の世界なんですか?
- 2: 金融庁総務企画局参事官・油布志行さんに伺う(2)日本人のお財布だけが、全く成長していない
- 3: 金融庁総務企画局参事官・油布志行さんに伺う (3)世界の優良企業の株主になろう
- 4: 金融庁総務企画局参事官・油布志行さんに伺う(4)印象に残るのは、NISAの導入とコーポレートガバナンスの改革