更新日: 2020.03.24 その他暮らし

街の風景が大きく変わる…。再開発事業は、いいことだらけなの?

街の風景が大きく変わる…。再開発事業は、いいことだらけなの?
以前に再開発事業で供給される新築マンションの特徴やメリットについて書いたことがあります。公的なサポートのもとで施行される事業であり、もちろん長所はたくさんあります。だから全国のあちこちで行われているのでしょう。
 
ただし、ものごとには「光と影」の両面がつきもの。今回は、再開発が予定されている具体的なエリアで、「影」のことも考えてみたいと思います。
 
上野慎一

執筆者:上野慎一(うえのしんいち)

AFP認定者,宅地建物取引士

不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。

レトロな飲み屋街が区役所の新庁舎に生まれ変わる再開発

「昭和レトロ」というフレーズがありますが、昭和も平成も終わって今や令和の世。時代も街もどんどん姿を変えていきます。ある再開発エリアでは、路地に張りめぐらされた、まさに昭和レトロの古めかしいアーケードの飲み屋街の風景が一新されます。新たに誕生する建物は、なんと区役所新庁舎です。
 
そんな大変貌が予定されるのは、東京都葛飾区の京成立石駅前。飲み屋街アーケードのうち線路沿いエリアはすでに解体されて更地になっています。再開発と一緒に線路が高架化されて周辺の踏切もなくなります。3つの図面等でイメージをご説明しましょう。
 


 
【図1】の京成立石駅周辺で3つの再開発計画が進み、スケジュール的に先行しているのが駅北口地区(青色部分)。2021年度から建物新築工事が始まり、2025年度に完成予定です。
 
【図2】のように西側には35階建のタワーマンション等、東側には事務所(葛飾区新庁舎)等、そして地区の真ん中には大きな交通広場が整備されます。
 
線路南側から見た完成イメージを示したのが【図3】です。
 
駅の南側でも【図1】の2つの再開発計画が進行。南口西地区(紫色部分)には懐かしいアーケード商店街があり、その一角のモツ焼店(居酒屋愛好者の間では超有名)には入店待ちの行列が途切れません。
 
立石のエリアですが、作家の五木寛之や漫画家のつげ義春・忠男兄弟の作品には、血液銀行がかつてあったところとして登場。輸血用の血液の大部分を売血で集め、生活のために血液を売る人がいた時代があったのです。
 
なお、今ではその跡地が“血税”を集める税務署になっているのは、単なる偶然でしょう。つげ義春の漫画では、メッキ工場などがある下町として随所に描かれました。
 
そして、昨年11月に封切られたある映画にも登場。地方から上京した20歳の女性が、つてを頼って立石の銭湯に居候して、仕事を手伝いながら地元の人たちと打ち解けていくストーリー。実は、銭湯は再開発で廃業してしまうという結末でした。

再開発のメリットのおさらい、そして「影」とは?

再開発事業で敷地をまとめて立体的に高度利用(より大きくより高層な建物が建てられる)し、街並みと建物そして住まい方も新しいものに全面変更すると、暮らしやすくて便利な街が生み出されます。
 
街全体の付加価値も高まり、再開発計画が具体化すると周辺の土地も値上がりしやすいといわれます。国土交通省のサイトで検索すると、京成立石駅近くで似た条件の土地取引事例で[2014年:坪120万円]と[2019年:坪170万円]がヒット。すべて再開発の効果かどうかはともかく、かなりの上昇率です。
 
また住宅で、完成してから時間が経っても値下りしにくかったり値上りしたりするようなケースも見られます。分譲マンションで人気を集めるキーワードでも「再開発」がよく挙げられます。
 
一方で、懐かしい生活シーンはどうなるのでしょうか。
 
100円玉1枚で楽しめる子どものオアシスの駄菓子屋、作りたてをその場で100円台・200円台で少量買いできる惣菜店、1品100円台のつまみやジョッキ1杯200円台の酎ハイ(下町エリアの“ソウルドリンク”)など千円札1枚で結構酔える大衆居酒屋。こういった個性ある風景や街並みは、姿を消してしまうのです。

まとめ

街全体を防災・防犯面で安全安心に、そして住まいもハード・ソフト両面で新しくて便利なものに切り替えていくことは、時代の大きな流れなのでしょう。先ほどの映画でも、制作意図は「古いものを残せ」ではなくて、「街の終わりに丁寧に向き合うことが大事」と訴えたいという監督談話を新聞記事で見かけました。
 
東京都内だけでも、「事業中」と「予定」の再開発事業が60地区あります(※)。古いものをただ懐かしむのではなく、もうすぐ消えてしまう街並みや暮らしの記憶を次の新しい時代に何らかの形で活かしていく視点や工夫も、必要なのかもしれません。
 
出典:(※)東京都 都市整備局「市街地再開発事業」
 
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士


 

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