更新日: 2020.06.15 その他暮らし

忙しいときは「早く」、暇なときは「ゆっくり」。時間の経過感覚の違いをもしも“時給”に反映してみたらどうなる?

執筆者 : 上野慎一

忙しいときは「早く」、暇なときは「ゆっくり」。時間の経過感覚の違いをもしも“時給”に反映してみたらどうなる?
新型コロナウイルス問題は、結果的に在宅勤務やテレワークを拡大させることにつながっています。会社でのいつもの勤務に比べて、自宅では「時間の経ち方が違う!」と感じた方も多いのではないでしょうか。
 
いつもより早いのか、それともゆっくりなのか。人によってそれぞれかもしれませんが、同じ1時間なのに場所や環境が変わることによって感じ方に結構大きな変化がありえるのです。
上野慎一

執筆者:上野慎一(うえのしんいち)

AFP認定者,宅地建物取引士

不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。

時間の経過感覚がさまざまなのは、どうして

時間の経過の感じ方に関する有名な説として「ジャネーの法則」があります。これは、年齢に反比例して時間の心理的長さが変わるというもの。
 
同じ1年が、10歳の人には人生の10分の1なのに対して50歳では50分の1。つまり、10歳の感じる1年間が50歳では5年間に相当するくらい、同じ時間でも若い人には長くて高齢になるほど短く感じられるのです。
 
また、楽しい時間があっという間にすぎるのに、退屈な時間はなかなか経過しないのはどうしてでしょうか。理由のひとつとして指摘されるのが、時間の経過に対して向けられる「注意の頻度」の違いです。
 
注意の頻度が高いと時間は長く感じられます。【だらだらと続いている会議の終了】や【約束の時間にやってこない人】を待つときを想像してみてください。しょっちゅう時計を確認するのに、時間はあまり進んでいません。
 
逆に、楽しいときはそのことに没頭しがちですので、注意の頻度は低いでしょう。たまに時計を見て、「おや、もうこんなに時間が経っているのか」と感じるわけです。(「楽しいとき」ではありませんが、試験中に問題に追われて解答しながら、たまに時計を確認する場合も同じですね)。
 
このような時間経過に対する注意の頻度のほかに、身体的代謝、体験される出来事の数、感情の状態なども、それぞれが時間の長さの感じ方に影響を及ぼすといわれています(※)。

この感覚の違いを“時給”に反映してみると……

それでは、この感覚の違いがおカネに影響することはないのでしょうか。
 
例えば、人は働くことによって給料を得られるわけですが、そこに時間の長短の感じ方、いわば「体感時間」のような要素を加えるとどうなるのか。次のような事例で考えてみましょう。
(数値や内容は少しアレンジしていますが、筆者の知人の実体験に基づいています)
 
<時給>
1200円
 
<仕事の内容>
来場者が持参する書類の受付業務(時間帯や当日の天候によって、1時間当たりの来場者数には数倍から数十倍程度のふれ幅が発生する場合がある)
 
ここで、ある1時間における書類受付処理件数(来場者数)について、[10件]、[20件]、[30件]、[60件]の4つのケースを想定してみます。
 
1時間に10件の受付ならば[6分に1件]なので、ゆっくりと処理できます。これが20件では[3分に1件]、30件[2分に1件]、60件[1分に1件]と、どんどん忙しくなっていきます。
 
この仕事は1件いくらという「出来高制」ではありませんが、結果的な件数単価を計算すると、[10件] 120円、[20件] 60円、[30件] 40円、[60件] 20円 となります。同じ時給ならば、仕事が楽な(来場者が少ない)方が単価も高くなるのは当然でしょう。
 
しかし、先ほどの時間経過に関する感じ方の違いを要素に加えてみるとどうでしょうか。【図表1】をご覧ください。
 


 
先ほどの件数単価の計算結果とは間逆に、仕事が忙しくなるほど体感時間当たりの“時給”は増えるのです。その傾向は、体感時間の時間差を大きくつけた<試算1>だけではなく、時間差をゆるやかにした<試算2>でも同じでした。

まとめ

ほんの2つの試算ですし、もちろん時給といってもある1時間だけの暇さ・忙しさで判断することはナンセンスでしょう。
 
また給与体系も、時給以外に日給、月給、年俸などの場合も多いです。暇さ・忙しさの体感差を仮に時給に換算したとしても長い目でトータルに見れば、今回のように大きな数値差にはならないかもしれません。
 
とはいえ、時間経過に関する感じ方の違いを仮に数値化して反映してみると、仕事単価の高い・安いの様子が一変する場合があることは、興味深いところです。
 
仕事が忙しすぎるのは、困りものです。「働き方改革」の大きなトレンドにも反します。しかし、時間の感じ方の要素まで含めると、暇で楽な仕事がいつでも全面的におトクとまではいい切れない場合もあることは、頭の片すみでちょっぴり意識しておいてもよいでしょう。
 
[出典](※)公益社団法人日本心理学会「心理学Q&A」~「Q36:なぜ時間を長く感じたり、短く感じたりするのですか?」
 
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士