繰上げ返済しすぎると「住宅ローン控除」が受けられなくなる!? “控除”と“繰上げ返済”、どちらを優先すべきですか?
今回は、住宅ローン控除と繰上げ返済、どちらを優先したらよいか、どのように判断したらよいか解説します。
FPオフィス And Asset 代表、CFP、FP相談ねっと認定FP、夫婦問題診断士
保険代理店勤務を経て独立。高齢出産夫婦が2人目を産み、マイホームを購入しても子どもが健全な環境で育ち、人生が黒字になるようライフプラン設計を行っている。子どもが寝てからでも相談できるよう、夜も相談業務を行っている。著書に「書けばわかる!わが家の家計にピッタリな子育て&教育費のかけ方」(翔泳社)
住宅ローン控除の仕組み
住宅ローン控除は、居住開始年、省エネ物件、子育て世帯、中古、新築等によって控除内容が異なります。省エネ住宅でない中古物件の場合、2025年の住宅ローン控除の内容は、年末残高(最大2000万円)の0.7%を、最長10年間にわたり所得税や住民税から控除できるという仕組みです。
また、住宅ローン控除は、ローン期間が10年以上あることが条件となっています。もし、繰上げ返済によって当初のローンスタート時期からローン終了時期までの年数が10年未満になってしまうと、住宅ローン控除を受けられなくなります。しかし、繰上げ返済をしても返済期間がトータル10年以上あるなら、住宅ローン控除は受けられます。
したがって、繰上げ返済をすると住宅ローン控除を受けられなくなるわけではありません。一般的に繰上げ返済によって、住宅ローン返済期間がトータル10年未満になるケースは、一般的にはまれかと思われます。
具体例を見てみよう
では、繰上げ返済と住宅ローン控除、どちらを優先すべきか、具体例を見てみましょう。借り入れ3000万円、返済期間35年ある人が5年後に100万円繰上げ返済した場合と15年後に繰上げ返済した場合を金利0.5%と1%で比較します。
住宅ローン控除の内容は、年末残高3000万円まで13年間(新築住宅省エネ基準住宅)0.7%の控除が可能とします。
ポイントは、繰上げ返済によって住宅ローン控除が減額する金額と利息減額分、どちらが大きいのかという点です。
金利0.5%のケースで5年後に繰上げ返済すると、利息は約15万8000円減りますが、住宅ローン控除も約6万4000円減ります。したがって、実質の負担減額分は約9万4000円です。
次に15年後に繰上げ返済すると利息は約10万円減り、住宅ローン控除はフルで利用できるため減額はありません。したがって、実質の負担減額分は約10万円です。つまり、0.5%の場合は、住宅ローン控除が終わってから繰上げ返済をしたほうがよいということになります。
次に、金利1%の場合を見てみましょう。5年後に繰上げ返済すると、利息は約34万減りますが、住宅ローン控除も約6万5000円減ります。したがって、実質の負担減額分は約27万5000円です。
次に、15年後に繰上げ返済すると利息は約21万円減り、住宅ローン控除はフルで利用できるため減額はありません。したがって、実質の負担減額分は約21万円です。つまり、1%の場合は、住宅ローン控除に関係なく早めに繰上げ返済をしたほうがよいということになります。
図表1
本章で行ったシミュレーションを、図表1にまとめたので参考にしてください。なお、このシミュレーションは、金利が35年変わらなければという前提のもと、シミュレーションしています。
ポイントは金利の高さ
シミュレーションによって分かることは、繰上げ返済を優先したほうがよい場合は、住宅ローン控除より住宅ローンの金利が高いケースです。
金利が1%であれば、住宅ローン控除が0.7%だとしても、その差の0.3%分の利息は負担していますし、繰上げ返済は早いほど利息削減効果があります。したがって、金利が高い場合は、繰上げ返済を優先したほうが負担額は減ります。
一方、金利が0.5%であれば、0.5%の金利を支払うものの、住宅ローン控除によって0.7%の税金が戻ってくるわけですから、その差の0.2%分多く手取りが増えます。したがって、金利が低い場合は住宅ローン控除を優先したほうが負担額は減ります。
NISAで運用という選択肢も
住宅ローン控除と繰上げ返済は、住宅ローンの負担を減らすことができます。しかし、金利が上昇してきたとはいえ、まだ1%ほどですから、繰上げ返済するお金があるならNISAで運用するという選択肢もあります。
住宅ローンの残期間や残高、また、住宅ローンを早く返したいかどうかなど人によって状況は違いますから、自分に合った方法で返済していきましょう。
出典
国土交通省 住宅ローン減税
執筆者 : 前田菜緒
FPオフィス And Asset 代表、CFP、FP相談ねっと認定FP、夫婦問題診断士
