更新日: 2019.09.03 その他年金
タイの年金制度ってどうなっているの?日本との社会保障の違いとは
この15年で約3倍の増加となっており、主な要因は日系企業の進出による日本からの駐在員やタイで就労した邦人の増加と考えられますが、加えて定年後にリタイヤメントビザで在留している日本人も相当数いるものと考えます。
執筆者:小松英生(こまつ ひでき)
税理士
ASAHI Networks (Thailand) Co., Ltd. 代表取締役
1997年税理士登録。2001年KPMG税理士法人入所。2006年より3年間KPMGバンコク事務所赴。2012年2月より現職に就任し、30名のスタッフとともに日系企業に対し、タイ投資のため外資規制対策、BOIの活用、労働法、会社法、税法、会計法に関する実務や対処方法のアドバイザリーを提供している。
2014年9月よりJETROバンコク 中小企業海外展開現地支援プラットフォーム事業・専属コーディネーターを拝命
■タイでの生活財源
タイでリタイヤメントビザを取得しタイで生活している邦人の主な財源は、日本の年金や不動産等資産の運用から得られる所得と思われますが(リタイヤメントビザではタイで就労できません)、中にはタイで一定期間就労した方がタイで定年され、タイの年金を得ている方も少数いらっしゃるように感じます。
では、タイの年金制度はどうなっているのでしょうか。
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■タイの年金制度について
タイの社会保障法によると、対象となる保障として、負傷や疾病、妊娠、労災、死亡、児童福祉、失業、そして老齢年金があります。1名以上の社員を有する会社は当該社会保障制度への加入が義務付けられ、保険料として賃金の5%(最高750バーツ:賃金1万5000×5%)を会社と社員それぞれが同額負担します。
加えて、タイ政府も2.75%の拠出を行います。
年金の支払額ですが、55歳以上での定年で180カ月(15年)以上保険料を支払った者が年金受給の資格要件で、退職前60カ月の保険料算定の基礎賃金(最高1万5000バーツ)の平均額の20%が年金として毎月、死亡するまで支払われる制度となっています。
基礎賃金が最高額となっている方であれば、1万5000バーツ×20%=3000バーツが毎月給付されることになります。180カ月以上支払った者に対しては、超過する月数12カ月ごとに1.5%が加算されます。
年金の受給に満たない期間、保険料を支払った者に対しては、年金一時金として一定額が一度に支払われます。
■年金財源は十分か
現在の制度における、本人の保険料掛金の総額(最高額ベース)は180カ月支払った場合で13万5000バーツ(750×180カ月)ですが、年間給付額は3万6000バーツ(月3000バーツ×12カ月)ですので、割引率を無視すれば3年9カ月で元が取れることになり、非常に受給者に優しい制度になっています。
ただし、月3000バーツ(1万円程度)だけでは余裕ある生活には不十分と思います。
社会保険の収支やファンドの状況ですが、社会保険事務所のWEBサイトで公開されており、英語併記もあり、大変良くできている印象を受けます。
その資料から、2016年に拠出された保険料総額は1863億バーツで、年金の財源に充てられたのは1230億バーツ、年金の財源として確保されているのは1.1兆バーツ(3.7兆円程度)となっています。
一時金含めた年金受給者は35万人弱で、支払総額は94億バーツです。日本のように国民皆保険制度となっておらず、55歳以上での社会保険の被保険者率はわずか11%程度でしかありません。
それ以外に政府役人や教職員の社会保障制度はありますが、多くの高齢者が保障に未加入のまま高齢を迎えているため、そういった方々には政府は給付金という形で支援を行っています。
2017年のデータでは、60歳以上の就労していない高齢者には毎月600から1000バーツが支払われており、総受給者は1170万人で総支給額は664億バーツとの予測データがあります。
前記の資料からは、数値だけみると財源的には今のところ十分なように感じますが、これからさらに高齢化を迎え、社会保険に加入していない老齢者も今後増加してゆくことから、社会保障制度全体の見直しが現政府の重要項目の一つとなっています。
ちなみに、日本では、2016年予算ベースで、保険料収入66兆円と税からの拠出45兆円に対し、年金の支払いが57兆円、医療が38兆円、その他福祉が24兆円で、年金の積立額は145兆円となっているようです。
経済規模や物価水準が異なりますし、人口もタイの倍近くある日本ですが、金額規模は比べものにならないですね。
■日本とタイの老後を社会保障の制度で比較
日本の社会保障制度は、タイのものに加え、高額医療費の負担や介護保険の制度が整い、タイより格段制度が充実していると感じます。
一方タイでは、例えば社会保障を使って病院に行った場合、長い間待たされて、簡単な診察と安価な薬を少量出されてそれでおしまいです。病院も公立の病院一つを事前に登録する必要があり、それ以外にはかかれません。
保障としては不十分なため、企業が従業員のために福利厚生の一環で民間の医療保険に加入させるケースもあり、日系企業でも半数程度の会社が加入しているというデータがあります。
■高齢者社会を迎えて
近代化が著しく、特に都市部での生活コストの上昇が止まらない中、一方で1人当たりGDPが6000ドル程度の状況でこれから益々の高齢化社会を迎えるタイ。
老後、現在の年金制度に頼れなくなるのは明らかでありますが、家族やコミュニティーが相互に助け合うことを大切に考える価値観を持ち、それを当然のこととして行動していますので、国が社会保険制度の見直しをしながらも、その価値観が変わらないことが高齢化社会を生きる鍵であると感じます。
Text:小松 英生(こまつ ひでき)
ASAHI Networks (Thailand) Co., Ltd. 代表取締役、税理士