更新日: 2020.09.07 その他年金
年金の新制度で「年金時効」がなくなる? いったいどういうこと?
60~65歳未満に受け取る場合は繰上げ期間によって減額された年金、66~70歳までの希望する年齢まで繰下げ受給請求をすれば、繰下げ期間によって増額された年金を受け取ることができます。
令和2年の年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律では、繰下げ受給の上限年齢が70歳から75歳に引き上げられるとともに、上限年齢以降に繰下げ請求する場合に上限年齢に繰下げ申し出があったとする制度も、繰下げ上限年齢70歳から75歳に見直されます。
そして、70歳以降に請求する場合の5年前時点での繰下げ制度が新設されます。それにより、年金の時効がなくなります。なぜでしょうか? 詳しく見ていきましょう。
執筆者:林智慮(はやし ちりよ)
CFP(R)認定者
確定拠出年金相談ねっと認定FP
大学(工学部)卒業後、橋梁設計の会社で設計業務に携わる。結婚で専業主婦となるが夫の独立を機に経理・総務に転身。事業と家庭のファイナンシャル・プランナーとなる。コーチング資格も習得し、金銭面だけでなく心の面からも「幸せに生きる」サポートをしている。4人の子の母。保険や金融商品を売らない独立系ファイナンシャル・プランナー。
72歳で年金の受け取り請求、繰下げしたら
年金の受給申請を上限年齢以降に繰下げ請求する場合、上限年齢に繰下げの申し出があったものとして支給がされます(現行、上限年齢は70歳)。繰下げ請求を72歳でした場合は、70歳に繰下げの申し出があったものとされます。
これにより、65歳から70歳までは繰下げ待機期間となり、繰下げ増額分0.7%×12ヶ月×5年=42%の増額された年金を70歳から受け取ることができ、70歳から72歳までの分は72歳に一括で受け取れます。
令和2年の年金法改正により、現行70歳である繰下げ受給の上限年齢が、令和2年の年金法改正で75歳に引き上げられます。それに伴い、上限年齢75歳以降に請求する場合の上限年齢での繰下げ制度も、75歳に見直されます(令和4年4月施行)。
よって、75歳以降に繰下げを申し出た場合、例えば、80歳で繰下げを申し出たら、受給権が発生する65歳から75歳まで繰り下げたとされ、10年間の繰下げ待機分0.7%×12ヶ月×10年=84%増額された年金を75歳から受け取ることになります。75歳から80歳までの受け取り分は、80歳に一括で受け取ります。
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72歳で年金の請求、繰下げしなかったら(現行)
現行では、繰下げ上限年齢は70歳です。72歳で年金の受け取り申請をしたとします。この場合に、繰下げをしなかったら年金の受け取りはどうなるでしょうか。
老齢年金の受給権は、65歳で発生しています。年金には時効があり、受給権が発生してから5年を経過したときは、時効によって消滅してしまいます(国民年金法102条第1項・厚生年金方第92条第1項)。
現行、繰下げ請求をしない場合は、72歳の5年前の67歳の分から受給できますが、65歳から67歳の分は時効で消滅してしまい、その間の年金は受け取れません。67歳から72歳の5年分は、72歳に一括で受け取ります。
繰下げる場合は1月あたり0.7%の増額になりますが、繰下げ請求をしない場合なので、その増額もありません。年金額は65歳で受け取りが決定した年金額になります。
ところで、法改正で繰下げ上限年齢を70歳から75歳に引き上げられますが、受給権の年齢65歳から10年の期間が発生します。繰下げ年齢上限を超えて申請をする場合は、繰下げの選択をすることで時効になりませんが、上限年齢を超えても繰下げをしない場合は、現行より多くの年金が時効消滅します。
また、現行の上限以降である70歳以降75歳の間での受給申請は、受給権年齢65歳を5年経過してしまうため年金時効が発生します。
しかし、令和2年の年金法改正で、この時効による消滅がなくなります。
年金時効がなくなる制度とは
70歳以降に請求する場合の5年前時点での繰下げ制度が新設されます。70歳以降80歳未満の間に請求して、かつ、繰下げを選択しないとき、5年前に繰下げの申し出があったものとして年金を受け取れます(令和5年4月施行)。
72歳での申請を例に取ると、5年前の67歳で繰下げ申し出があったものとされ、現行では時効消滅する65歳から67歳の2年間が繰下げ待機期間となります。0.7%×12ヶ月×2年=16.8%増額された年金を67歳から受け取ることになり、67歳から72歳までの5年分を72歳で受け取ります。
この制度の新設で、現行では時効で失った期間が繰下げ待機期間とされるため、その分増額された年金を受け取ることができます。
(参考・引用)
厚生労働省「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要」
厚生労働省「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律 参考資料集(令和2年法律第40号、令和2年6月5日公布)」
日本年金機構「年金の時効」
執筆者:林智慮
CFP(R)認定者