【FP解説】年金の「知らないと損!」 冷たい時効の壁
配信日: 2019.09.25
「しまった!」と、ほぞをかまなくてもすむように、あらかじめ知っておきたい知識の数々をお伝えします。第1回は「冷たい時効の壁」です。
執筆者:和田隆(わだ たかし)
ファイナンシャル・プランナー(AFP)、特定社会保険労務士、社会福祉士
新聞社を定年退職後、社会保険労務士事務所「かもめ社労士事務所」を開業しました。障害年金の請求支援を中心に取り組んでいます。NPO法人障害年金支援ネットワーク会員です。
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「すごい、800万円も」と大喜びしたのだが……
Aさんは無職の30歳。小学生の時に初診日がある精神疾患で、2ヶ月前に障害年金を請求したところ、20歳の時点で障害基礎年金2級だったと認定されました。
さかのぼって年金がもらえます。「障害基礎年金2級の年金額は、1年間に約80万円。ということは、20歳から30歳までの10年間で約800万円。すごい!」と大喜び。
ところが、実際に受給できたのは約400万円でした。年金事務所に問い合わせると、「時効があるんです。残念ながら、5年を超えた期間の分は支給されません」とのこと。400万円でも大金ですが、期待が大きかっただけに、Aさんはなんだか損をしたような気分です。
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年金制度にも「時効」があるなんて
「時効」というと、テレビの刑事ドラマなどによく出てくる犯罪の「時効」を思い浮かべる人が多いと思います。実は、年金制度にも「時効」があるのです。国民年金法や厚生年金保険法などにその規定があります。
Aさんが受け取った年金証書を見てみると、「受給権を取得した年月」の欄には、Aさんの20歳の誕生日の前日が属する年月が書かれていました。「20歳の誕生日の前日」というのは法律上、20歳になった日とされており、Aさんのような「20歳前障害」の場合は、この日が障害認定日になるからです。
納付済みの国民年金保険料を全額返してもらえた
受給権はあっても、請求していなかったから、5年を超えた期間の分、つまり20歳から25歳までの約5年間の年金は、時効が成立してしまったわけです。
一方、Aさんは障害基礎年金の受給権を取得したことで、国民年金の保険料の法定免除を受けられることになりました。20歳からこれまでに納めた約10年間の保険料を、全額返してもらうことができました。この点は、時効のある年金受給とは別の仕組みなのです。
注意しなければいけない「時効」のいろいろ
年金制度には、時効が適用されるケースがたくさんあります。中でも注意が必要なのは、「死亡一時金」や「脱退一時金」です。
死亡一時金とは、第1号被保険者だった人が、老齢基礎年金や障害基礎年金を受給することなく死亡した場合、遺族に支払われるものです。脱退一時金とは、帰国する外国人が、それまでに納めた保険料を一部返還してもらう形で受給できるものです。
これらは、わずか2年で時効になります。のんびり構えているわけにはいきませんね。
また、年金の保険料の支払いにも時効があります。これも2年です。注意しなければならないのは、第3号被保険者から第1号被保険者に変わったのに、日本年金機構に届け出るのを忘れていた場合です。
第3号被保険者というのは、いわゆる「サラリーマンの妻(または、夫)」です。配偶者が退職し、配偶者自身が第2号被保険者から第1号被保険者に変わった場合や、ご自身の所得が増えて第3号被保険者から外れた場合などが考えられます。
この届け出を忘れたままにして時効になると、保険料の納付ができなくなり、その結果、老後の年金額が減ってしまいます。
「5年間の遡及支給は、温情的な特別措置」との見解も
なお、年金記録が訂正された場合や、行政側の処置に誤りがあった場合は、時効は適用されません。ところで、5年以上前の障害年金は受給できないことについて、今回は「冷たい時効の壁」と表現しました。
しかし、法律家の間では「本来は、障害認定日から5年以上経過すれば、受給権そのものが時効にかかる。5年間の遡及支給は、むしろ行政による温情的な特別措置と言える」という見解もあることを付け加えておきます。
執筆者:和田隆
ファイナンシャル・プランナー(AFP)、特定社会保険労務士、社会福祉士