兄弟で遺産分割「不動産は兄、現金3000万円は自分」で同意したのに“1000万円”の大損!? 見落としがちな「不動産相続の落とし穴」とは
不動産の相続税評価額と実際の市場価格の差を見落とすと、思わぬ格差が生まれてしまうのです。本記事では、遺産分割の基本的な仕組みから、不動産と現金の相続における落とし穴について解説します。
FP2級、日商簿記3級、アロマテラピー検定2級、夫婦カウンセラー、上級心理カウンセラー、整理収納アドバイザー
そもそも相続はどうやって決まる?
相続が発生した場合、誰が相続人になるのかが民法によって定められています。配偶者は常に相続人となり、そのほかは第1順位が子ども、第2順位が直系尊属(父母など)、第3順位が兄弟姉妹という順番で相続人が決まります。
相続の割合も民法で定められており、これを「法定相続分」といいます。例えば、兄弟姉妹のみが相続人の場合は、人数で均等に分けることになります。
ただし、相続人全員が合意すれば、法定相続分と異なる割合で遺産を分けることも可能です。この話し合いを「遺産分割協議」といい、相続人全員が納得すれば、特定の財産を特定の人が相続することもできます。
不動産相続の落とし穴「評価額」と「市場価格」の違い
不動産を相続する際、多くの人が混同してしまうのが「相続税評価額」と「市場価格」の違いです。この2つの価格には大きな差があることが多く、遺産分割で思わぬ不公平を生む原因となります。
相続税評価額は、相続税を計算するために国が定めた評価方法で算出される価格です。国税庁によると、路線価は地価公示価格等を基にした価格の80%程度をめどに定められています。
【不動産の評価額の計算例】
・市場価格:4000万円
・相続税評価額:4000万円×80%=3200万円
【遺産分割の例】
・兄:不動産(相続税評価額3200万円)
・弟:現金3000万円
【実質的な価値の差】
・兄の取得財産の実質価値:4000万円(市場価格)
・弟の取得財産の実質価値:3000万円(現金)
・差額:4000万円-3000万円=1000万円
つまり、実質的には1000万円もの差が生じることになるのです。さらに、不動産には「小規模宅地等の特例」という制度があります。一定の条件を満たせば、相続税評価額を最大80%減額できるため、相続税の負担を大幅に軽減できます。現金にはこのような特例はありません。
将来の価値変動で差はさらに広がる可能性も
不動産と現金の差は、相続時点だけの問題ではありません。都市部では再開発により、不動産価格が大きく上昇することがあります。一方、現金は額面どおりの価値しかありません。インフレが進めば、実質的な価値は目減りしていきます。
【インフレによる現金価値の目減り計算】
・現金:3000万円
・インフレ率:年2%(日本銀行の目標)
・10年後の実質価値:3000万円×0.82=約2460万円
また、不動産は賃貸に出すことで、月10万円の家賃なら年間120万円の収益を生み出すことも可能です。
公平な遺産分割を実現するための注意点
遺産分割で後悔しないためには、不動産の価値を正確に把握することが重要です。相続税評価額だけでなく、不動産会社に査定を依頼して市場価格を確認しましょう。
また、専門家のアドバイスを受けることも大切です。税理士は相続税の観点から、不動産鑑定士は適正な価格評価の観点から、それぞれ専門的なアドバイスを提供してくれます。
まとめ
遺産分割において、不動産と現金を単純に相続税評価額で比較すると、大きな不公平が生じる可能性があります。相続税評価額と市場価格の差、将来の価値変動など、さまざまな要素を総合的に考慮する必要があります。
「兄弟仲良く分けたはずなのに……」と後悔しないためにも、不動産の真の価値を理解し、全員が納得できる遺産分割を目指せたらいいですね。
出典
国税庁 No.4102 相続税がかかる場合
国税庁 No.4152 相続税の計算
国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
執筆者 : 上野梓
FP2級、日商簿記3級、アロマテラピー検定2級、夫婦カウンセラー、上級心理カウンセラー、整理収納アドバイザー